第4章 今剣
本丸へと帰投した2人を迎えた短刀達は震撼した。今剣が何やら見たことのないものを持って帰ってきたからである。今剣が動く度にふわふわと浮かびながら着いてまわるそれに釘付けだった。
「ねえ、今剣ソレって何⁈」
紐の先に黒ネズミの顔をした何かが浮いている。乱が思わず問うと、愛染も気になって仕方ないという風にそれを見つめていた。
「これはふうせんというものです。あるじさまにかってもらいました」
ドヤ顔の今剣の周りを囲む短刀達は、初めて見る風船に興味深々だ。短刀達ばかりでなく、鯰尾や骨喰、鶴丸も興味を引かれて近づいてきた。
「これは驚いたな。どういう仕組みで浮かんでいるんだコレは?」
そっとつつこうとした鶴丸から風船を遠ざけて、今剣は得意げに説明を始めた。
「だめですよ鶴丸、これはちょっとしたことですぐにわれてしまうんです。このなかにはくうきよりもかるいものがつまっているのだそうです。だからうかんでいるのですよ」
帰り道に審神者から教えてもらった通りの説明をそのまま告げた今剣を、短刀達は羨ましげに見つめる。特に小夜は風船から目を離せずにいた。空気よりも軽いものというのが何なのかはわからないが、ふわふわと浮かぶ風船をじっと見つめている。その様子を見た宗三が審神者へ詰め寄ろうとしたのよりも早く、動いた者がいた。
「主殿、何故あの風船とやらは一つしかないのですかな?主たるもの依怙贔屓はいかがなものかと」
どこにそんな機動力があったのか、一期一振が例によって目だけは全く笑っていない笑顔で審神者に詰め寄っていたのである。弟達の分が無いのが不満なのだろう。今にも飛び掛らん勢いだ。審神者は苦笑しながら口を開く。
「あれはちょっとしたことですぐ割れるのよ。全員分買ってきたとしても本丸に着くまでに一つ二つは割れてたでしょうね。だったら今日買うより自分の番の時に買った方がいいでしょう?」
もらえない者が出てくるのなら、それはお土産の意味を成さない。だから自分の番の時に、と言う審神者の言葉に一期は押し黙った。それは確かにその通りである。いち兄、と薬研に肩を叩かれ一歩退くと、一つ溜息を落とした。
「それならば仕方ありませんな。ですが弟達の番が来たら必ず買って下さいますな?」
苦笑しながらうなづいた審神者は思った。兄バカもここまでくれば立派なものであると。