第4章 今剣
セーラーカラーのシャツにカーディガン、七分丈のパンツにブーツを履いて、今剣はクルリとその場で回ってみせた。
「どうですかあるじさま?ぼくへんじゃありませんか」
「良く似合ってるよ今剣。それと、今からは主様じゃなくて……」
「あねうえさま、ですね」
そうそう、と頷きながら審神者は今剣の頭を撫でた。今剣も嬉しそうにしている。忘れ物はないかを確認し、二人はゲートをくぐった。
「あねうえさま、どうしてみんなならんでいるのですか?」
開園後すぐにできるキャラクターグリーティングの待機列を、今剣は不思議そうに眺めている。それを横目でチラリと見遣り、審神者は足早に通り過ぎようとした。
「あれは写真を撮るためにならんでいるの」
「ぼくたちはとらなくていいのですか?」
「今はいいのよ」
後ろ髪を引かれている今剣と手を繋ぎ、アーケードに足を踏み入れた。途端に今剣は目を奪われた。両側には様々な店が建ち並び、通りには多くの人が歩いている。皆、笑顔で。瞬く間に今剣の身体を興奮が駆け巡る。園内では走ってはいけないと言われていたので、今にも駆け出したくなる衝動を抑えながら進むと、見慣れぬものを売り歩いていると思しき女性を見つけた。女性は沢山の紐を手にしており、その紐の先には様々な形の何かが繋がっていて宙に浮いている。見たこともないそれに心惹かれて、思わず立ち止まった。
「どうしたの?つーくん」
「あねうえさま、あのひとがもっているのはなんですか?」
指差す先には、風船を売る売り子の姿があった。
「あれは風船っていうのよ。つーくんも欲しいなら買ってあげるけど今はダメよ」
審神者の言葉に一瞬喜色を浮かべるも、すぐにダメだと言われ今剣は肩を落とした。そんな今剣の頭を撫でながら、審神者は気落ちした瞳を覗き込んで言う。
「あれはちょっとしたことで破れてしまうから、持ってるとアトラクションに乗れなくなるの。帰りに買ってあげるから、それまで我慢してね」
「はい、わかりました‼︎」
今剣の顔に笑みが戻ったのを確認し、また手を繋いで歩き出した。