第3章 御手杵
審神者は一つ重大なことを失念していたのに気づいた。この時間の土産物屋は戦場であるということを。比較的空いている時間帯に連れて行った薬研でさえ戸惑い、買い物が終わる頃にはぐったりと疲れていたというのに、ましてや一番混み合う時間帯に連れてきた御手杵をやである。案の定途轍もない人混みと、そこにいる人々の気迫に押されて店に入りあぐねていた御手杵の手を取り審神者は戦場へと突入した。
御手杵にカゴを持たせ、自らもカゴを持ちとある棚めがけて人混みの中をすり抜けるように審神者は進んでいく。御手杵はその後姿を見逃さないようになんとかついていくだけで精一杯である。ようやくたどり着いたと思しき棚の前で足を止めた審神者は、おもむろに並んでいた菓子の袋をいくつもカゴの中に放り込んだ。
「お、おいみなみ、なんで同じものばっかり入れてるんだ⁈」
「コレ一袋に小袋8個しか入ってないの。全員に渡すには数が必要でしょ?」
「だからって多過ぎやしないか」
「余った分は私の分」
当然と言わんばかりに真顔で答えた審神者に、御手杵は言葉を失った。
土産物屋という名の戦場から辛くも帰還した二人は出入り口近くのフォトスポットで写真を撮っていた。二人だけで撮った写真が一枚もないのに気づいた審神者が気を利かせたのてある。朝、御手杵が見つけたハロウィンのデコレーションがライトアップされていて、昼間とは違う表情を見せている。それを背景に並んで写っている二人の笑顔はとても柔らかなものだった。