第3章 御手杵
「みなみ、何が大丈夫なんだ?」
御手杵は何故かコソコソと尋ねてくる。つられて審神者も声をひそめた。
「このショー本当は抽選で当たらないと見れないの。だけど一回目だけは並べば見れるのよ。ただ人数制限があるからまだ大丈夫か聞いたってワケ」
「薬研が言ってたヤツは夜しかやらないんじゃねぇのか」
「あれとは違うのよ。薬研と見たのは夜しかやらないけどこれは1日に4回やるから」
ふーん、と御手杵が納得したようなしてないような声を上げると、建物の扉が開き列が動き出した。
大きな欠伸をしながら歩く御手杵の隣で、審神者は頬を膨らませていた。それほど顔には出ていないように見えるが、実はかなりご立腹である。
「なぁ機嫌なおせよ、途中で寝ちまったのは悪かった。でもわざとじゃねぇんだ、なぁ」
「ぜーーっったい許さない。隣で大いびきかいてた誰かさんのせいですっごく恥ずかしかったんだからね⁈」
「悪かったってば。あ、ほらみなみの好きなぽっぷこーん売ってるぞ。食うか?」
「食べ物でごまかそうとしてもダメ」
ショーの途中から大きないびきをかいて寝てしまった御手杵はひたすら審神者に謝り続けていた。だが審神者の怒りは激しくなかなか許してもらえない。ちなみに審神者は御手杵にみなみと呼ばせているが、これはもちろん真名ではない。審神者になる前に使っていたハンドルネームである。
「大体、一番盛り上がるところで寝るってどういうこと⁈何のためにこのショー見に来たかわからないじゃない」
「あー、いや、その、悪かった」
このショーは主にジャズやゴスペルで構成されているが、一番の見せ場はキャラクター達による楽器の合奏である。 器用に楽器を弾きこなすキャラクター達の生演奏はマニアの間でも評価は高い。ショーの代名詞とも言える見所を居眠りで見逃した御手杵を横目に、審神者は大袈裟に溜息をついた。
「あーあ、せっかく海側に来たんだからと思って大人向けコース設定したのに意味ないじゃない。もう予定変更‼︎アトラクション乗りまくるわよ‼︎」
「だからその、悪かったって」
微かに嫌な予感がして、御手杵は平身低頭し続けた。