第9章 へし切長谷部
「ではみなみ様、本日はどちらから廻られますか?」
「……長谷部、お願いだからそのみなみ様ってのやめて」
真面目な顔で問う長谷部にこれまた真面目な顔で答える審神者。かっちりしたスーツ姿の長谷部と淡いサーモンピンクのシフォンワンピースを着た審神者では、見ようによってはお嬢様と執事に見えなくもない。何気に衆目を集めていることに気づいた審神者は対長谷部に最も有効な手段を取ることにした。即ち、主命である。
「長谷部、様付きで呼ぶのを禁止します。敬語もダメ。使ったら即刻帰ります。コレ主命ね」
「ですがみなみ様」
「ダメって言ったでしょ?次呼んだら帰るから」
「…では何とお呼びすれば」
「敬語も使っちゃダメ。みなみでいいの、普通に話して」
「しかしそれでは」
「いいから普通に話しなさい。主命です」
しばらく続いた押し問答の末、折れたのは長谷部だった。
「…では俺のことも国重と呼べ。行くぞみなみ、どこへ行きたい?」
「うん、それで良し。じゃあまずはショーを見に行こうか」
長谷部の不機嫌そうな表情とは裏腹に、どこからか桜の花びらがひとひら舞い落ちた。