第2章 消えた大樹
―――あの男はなんだったんだ…―――
いつものように自分にこうべを垂れていった、街の住民たちがさって行くのを見ながら、昨日からかけて何度目か分からない疑問を口に出した。
もちろんその疑問の答えが返ってくる事は無かったし、大体自分の声は誰にも届いていない。
唯一声の届くものと言えば、今までに植物しかいない。
もっとも、自分の大きな幹からなる葉で、地面にあまり光が届かないせいか、自分の周りにあまり草木が生えないため、話し相手は常時いる訳ではないが。
それにしても、本当にあの男はなんだったのだろうか。ここの街の住民でないということは『セオの大樹』の噂は、他の地まで進出しているのだろうか。
…いや。そうならばもっと人がここに来てもいいはずだ。それに、ここの住民たちは部外者が自分に近づくのを嫌がるだろうしな。人間には、別の場所の者と共有しあう心が無い。
そもそも、あの男は自分に祈りに来ていたのだろうか。ただ単にここへ辿りついて、自分の感情をぶちまけただけではないだろうか。その証拠かのように、あの男は祈念の言葉を一つも述べていなかった。
―――じゃあ、あの男とはもう会えないか……―――
……ん? ……んんっ???
―――なっ何を意味の分からない事を自分は考えているんだ! あんなただの人間の男に「会えない」だと?! どうでもいいはずじゃないか!―――
そうだ…。どうでもいい………はずなんだ……。
―――さみしい―――
どこかで私はそう呟いていたのかもしれない。