第25章 距離
ー菅原ー
「澤、むらくん…!」
休み時間、人の声で賑わう教室に女の子の声が響いた。
上擦った声で大地を呼んだ女の子は胸の前でぎゅっと両手を握り、僅かに頬を染めていた。告白か、とその場にいた誰もが思っただろう。
「あ、うん、どうした?」
呼ばれた本人が席を立ち、その子と共に教室から出ていくのを見ながら大盛況だな…と心の中で呟いた。
「ま、それはこっちもか」
チラリと視線を移せば、意味ありげな視線を窓の外を眺めている1人の女子に飛ばす男の群れ。
俺の友達曰く、「大人しくしてると可愛い」らしい。大人しくしてなくったって朱莉は可愛いし、そんなことお前らよりずっと前から知ってるっつーの。
とまぁ、心の内を言ってしまえばややこしい事になるのは目に見えているので止めておいたけど。
「な!菅原!紅林狙うのアリ!?」
「ナシっつったら止めんのかよ」
「止めねぇな!」
「なら聞くなよなー」
玉砕決定、だけどな。どんまい。
心の中でそう慰めておいた。