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カナリアの囁き

第2章 phase2 慟哭


「本当に誰もいないんだね。」


「まぁそっちの方が都合がいい。」

人がいないことなどお構いなしに店のおにぎりや弁当をカバンに詰めた。

「私…こんなに人を…」

「気にすることない…気にしなくていいんだ。」

「…ありがとうございます。」

少し遅い足取りの紗栄子ちゃんの手を引き、早めに街を出た。

街を抜けると木々が覆い茂る森に出る。
僕らの街は案外田舎であり、少し電車に乗れば都会に近いのだが、残された自然というわけである。

「私、彼女に乗っ取られている時少し感じることがあったんです。」

「うん。」

「彼女の心の中に浮遊する感じで…こう、どす黒い空間に閉じ込められた感じで…」

「やっぱりあながち彼女の言ってたことも間違いじゃないのかもしれないな…」

「私の、二重人格の話ですよね…」

紗栄子ちゃんはまた心配そうな目で僕の事を見ていた。

「でも、それじゃあなんで今になってなのかが分からない。」

「…すいません。その点に関しては私も…」

そう彼女が言った瞬間、頭に激痛が走った。
頭が割れる。
そのままの表現だった。

「爽さん!!どうしたんですか!!」

「頭が…割れる…」

「早く休めるところに…」

紗栄子ちゃんに肩を持たれながら空き病院に向かった。
そこはまるで地獄のようであった。
人々の血で床は染まり死体がそこらじゅうに散乱していた。
まさに地獄と表現できるものであった。
地獄を直接見たことはないが、痛む頭で精一杯頭を回し、紗栄子ちゃんが震えているのを感じた。

「ここはダメだ…不衛生過ぎる。
もっとマシな施設に…」

そう紗栄子ちゃんに伝えて、僕の記憶は途切れた。
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