第1章 互
「幕府は犬畜生にも劣るグズだ」
長きに渡った地球人と天人との戦争が幕を引いたのち、攘夷志士桂小太郎は曇天の空に向かって暴言を吐き捨てた。
恩師のため、そして国のために戦い続けた己と同志達の努力も虚しく、幕府は宇宙に対して開国した。そして結果的に、英雄とされた攘夷志士達は今や粛清の対象である。将軍の腰抜けた判断一つで、こうも己の立場が変わるものだとは誰も思うまい。しかし終わってしまった事は嘆いても意味がないのだ。これからは慎重に、けれど己の理想のままに動けば良い。どこか吹っ切れた部分もありつつ、桂は新たな夢と決意を抱いた。
「俺は覚悟を決めた。腑抜けな幕府を打倒し、いつの日か必ず日ノ本に夜明けを見せる。その為にこの攘夷、やめる訳にはいかん。俺と共に来い、美穂」
「え?」
夜明け……それは憎き幕府が支配権を奪われた世の中の事である。もう、彼の中では反逆が正義と成していた。将軍の首を奪い、新たな国を作り直す。そのためには、仲間が必要だった。そして思い立ってすぐ、桂は迷う事なく後方で佇む戦仲間の美穂を誘う。誘われた本人はいきなりの事で戸惑うも、熱い意思で彼女を求める桂の言葉に傾聴した。
「本来なら銀時にも加わって欲しいのだが、アイツはいつの間にか去ってしまったしな。だが、お前がいれば百人力。頼む、俺に力を貸してくれ。お前ほど強く、そして情に厚い者はいない。戦場で背中を預けるとすれば、俺はお前が良い。俺とお前の力を合わせれば、きっとこの国に革命をもたらす事が容易く出来よう」
「嫌よ」
返事は短かった。しかも即決。
突然の話題を振ったのは桂の方だが、こうも拒否の即答がきたのは些か驚いた。同じ国を憂う者同士、少しでも考えるそぶりを見せるのではないかと期待していたが、彼女にも思うところはあるのだろう。もしかしたら桂の知らない所で、終戦後に成し遂げたい夢でもあるのかもしれない。
仲間にしたい想いは山々だが、嫌がる女を無理に引き入れるのは人として廃る。そう考え、桂は理由だけ問うて、美穂を諦めるように己を説得した。