第3章 城中、城下
早いもので、私がそよ姫の元で働き始めてから数週間が経った。
お給料はその日ごとに戴いているものの(申し訳なくなるような額を)、そよ姫の目に触れないところでこっそりと受け渡しをしているのである。麻薬か。
それもそのはず、私がお金を貰って彼女の「友達」をしているということを知れば、そよ姫は凄く凄く傷付いてしまうことが目に見えているからだ。
この仕事を受けたきっかけは、私生活の安定____と言えば聞こえはいいが____単なる金のためであることは確かだ。
でも、彼女に実際に会って、彼女の、「そよちゃん」の友達になりたいと思ったからここにいるのだ。そこに金が絡んでいようとなんの問題もないではないか、友情には変わりないのだから。
そう自分一人で納得するも、想像は首をもたげて私の中で根を張り葉を広げて成長していった。
「ねえ、(名前)さん!この簪、凄く綺麗だよね!」
「はい。そよ姫に凄く似合うと思いますよ!こっちの紫色のも可愛いですね」
「うん、それもステキだなあ!」
街の簪屋で立ち止まり、色鮮やかな簪を手にとっては嬉しそうに笑うそよ姫は、どこからどう見ても普通の女の子だ。着物は動きやすいミニ丈の物に着替えていたが、この事実を____姫様を勝手に城下町に連れて行ったことを____城の人たちにバレたら、私はきっとお説教だろう。それだけで済めばいいが、城内に立ち入り禁止!なんてのも言われるかもしれない。
でも、もしそうなったとしても、今そよ姫が楽しそうなら、私はそれで良い。
「あれ、アンタ……」
「えっ……お、沖田さん!」
簪屋を離れて大通りを歩いていると、黒い服を着た男の子に呼び止められた。そよ姫の知り合いなのだろうか、男の子はそよ姫を見たあと私に視線をやり、そして暫し固まって俯いた。
「あっ、あの……!」
男の子が俯いていた顔をぱっと上げる。うわあ、目がばっちりしてる。まつげも長いし。肌も綺麗だし。なんだ、負けた気しかしない。
「お、俺!沖田総悟って言いやす」
「丁寧にどうも。私は紗倉美和です」
「美和……さん、ですかィ…」
そう呟くと、すいやせん!と謝ってから総悟くんは一目散に駆け出した。足長いな。なんかさっきから総悟くんのイケメン度ばかりを解説している気がする。