第10章 運命なんて信じたくないよ
私は、一人。いつも一人だった。
外に出れば、周りの子供は親に手を引かれて離れていく。家に帰れば私のことなんて見向きもしない人々が、私をわざとらしく迎え入れた。
私は、誰にも必要とされていない。愛されていない。そのことを、私は幼い頃にもう既に_____知っていたのだ。
*
部屋の中には沈黙が続いていた。
あの後、水明は自身を睨みつける坂田さんを見て、「めんどうな護衛がいるから、また今度ね。迎えに来るから」と告げ、去っていったのだ。
坂田さんは追いかけようと声を上げたけど、新八くんに止められていた。彼らにも、水明の殺気は伝わっていたらしい。
さっきの感覚を思い出して、無意識に手を握りしめた。
「……俺はよ」
「坂田さん…?」
「銀さん?」
ぽつり、坂田さんが口を開いた。目は相変わらずジャンプに向けられているけど、彼の声は真剣味を帯びていて、自然と背筋を伸ばす。
「おめーのことが知りてェ。美和」
「ぎ、銀さん?なにを……」
「あーもー、いいから黙って聞け」
ばさっ、と乱暴に机に叩きつけられたジャンプ。それには目もくれずに、彼の目は私を射抜くように鋭い眼光を見せていた。
「てめーの女のことくらい、知ってたってバチは当たんねェだろーが。それに」
知らなきゃ、護れない。
護る。
彼には、幾度となく護ってもらった。攘夷浪士からも、他の男性からも。
彼は、幾度となく私を掬いあげた。愛なんて知らない、仄暗い海の底でただしゃがみこんでいた私を引っ張り上げて、その腕の中に置いてくれた。
そして今度も、また、護るというのか。愛を与えるというのか。自らの危険を顧みずに。
「どうして___そんなに、」
溢れ出した涙と嗚咽で、最後まで言えなかった言葉を彼は拾って微笑む。そして私に告げた。お前を愛しているから、と。
___私は、他の誰でもない、彼に愛されるためにこの世に生まれてきたのではないか。
そう錯覚してしまうほどの、甘く優しい響き。
私は徐ろに口を開き、話し始めた。