第6章 こんな想いは初めてで
どうしてここにいるの。
ほとんど叫ぶように言ったその言葉に、坂田さんは至極真面目な顔で返した。
「心配したからに決まってる」
その言葉に、今まで堪えていた涙が溢れ出した。熱は止めどなく流れて止まるところを知らない。破れた着物を胸の前に一生懸命寄せて、下着を隠しながら、私は坂田さんの名前を呼び続けた。
「坂田さんっ、坂田さん」
「ああ」
「怖かった、怖かったよ!坂田さん!」
「もう大丈夫だから」
いつの間にか、坂田さんの腕の中にいた。優しく背中をさすってくれる手の温もりが、坂田さんの匂いが、全てが私を安心させた。
「旦那、美和さん!」
「おー、終わったのか、総一郎くん」
「総悟です。人数も少なかったんで、すぐ斬り捨ててきやした。そろそろ俺の隊が突入してるんで、全員しょっぴかれてる頃でさァ」
「だってよ。美和」
「……すいやせん、俺の油断が原因でさァ」
いつもより随分と小さく、弱々しい声。抱き寄せられているから顔は見えないけれど、総悟くんに気負わせてしまったことがひしひしと伝わってきた。
「違うよ、そんなことない。助けに来てくれて、ありがとう…」
私が泣き止んだことに気付いたのか、坂田さんはゆっくりと身体を離す。そこで初めて、私の着物が引き裂かれていることに気付いたのか_____総悟くんは低い声で、
「それ、さっきの男にやられたんですよねィ」と、疑問符すらついていない一文を発して、眼光を鋭くさせた。
「これ、着てくだせェ」
真選組の隊服のブレザーを、私の肩にかけて、総悟くんは踵を返した。
「ちょーっと、お灸を据えて来まさァ。俺警察で良かった」
と意味深な言葉を残し、総悟くんは真選組の人たちと合流して、攘夷浪士たちを連れて帰っていった。
「けーるぞ」
「は、はい」
「ほら」
と、坂田さんは私に背中を向けて片膝をついた。え、とその場に固まると、坂田さんは早く、と催促する。
「おめー、腰が抜けて歩けねーだろ。いいから甘えとけ」
坂田さんにおぶられて、街を歩く。さっき私を守ってくれた人の、力強い背中は、今はこんなにも優しい。
身を預けているうち、私は、眠ってしまっていた。