第1章 出逢いと始まり
「昨日引っ越して参りました、紗倉美和と申します。これ、つまらないものですが」
「へェ、アンタも若い身空で苦労してんだねェ…。私はお登勢。アンタ、江戸は初めてかィ?」
「はい。今までは京に住んでおりましたので」
「この町は良いところさ。アンタもすぐに気にいると思うよ。まァ慣れるまで時間はかかると思うけどね…なにかあったら頼りな。飯くらいならツケで出してあげるよ」
そう言ってタバコを噴かすお婆さん…もといお登勢さんに、私は頭を下げてお礼を言った。
私は先日、この歌舞伎町に引っ越してきた。確かにこの町は治安が良いとはお世辞にも言えないところだけど、活気に溢れていて素敵なところだと思う。
「あぁ、この店の上に変な看板があっただろ。あそこには男が一人住んでいて、万事屋なるものをやってんだ。ちゃらんぽらんで適当なヤツだけど、やるときはやるヤツだしね。とりあえず挨拶しておきな」
「はい、ありがとうございます。その方のお名前は……?」
「それは本人に聞いた方が面白いんじゃないかい?銀髪天パで、死んだ魚みたいな目をした男だよ」
もう一度お礼を言ってから店を出る。上を見上げてみれば、そこには堂々とした字で「万事屋銀ちゃん」と書いてある看板が掛かっていた。
粗品を抱えなおし、階段を上ってドアの前で声をかける。
「すみません!誰かいらっしゃいませんか」
その問いに答えが返ってくることは無く、しばらく待ってみるも誰もでてくることはなかった。
でかけているのかと思い、出直そうと階段を下りようとした時だった。
「…っ!す、すみません」
下を向いて歩いていたせいか、誰かにぶつかってしまった。慌てて謝るが返事はない。まさか怒らせてしまったのかと顔を上げると、そこには真っ青な顔をした男性がいた。
「綺麗な、銀色…」
思わずそう呟くと、その人は私の顔を覗き込むように、赤い瞳を合わせてきた。
驚きつつも見つめ返すと、彼の唇がゆっくりと開く。そして____
「ぎもぢわるい」
その口から吐き出された、数瞬まで彼の胃袋で溶けていたものたちは虚空に吐き出され、弧を描き、私の着物に模様を作った。
「ぎゃああああああ」
そして私の口からも、この世のものとは思えないほどの絶叫が飛び出したのである。