第7章 練習試合前日
黄瀬side
[あのね……?明日は練習試合で行くんだから、なるべく抱きつかないでほしいの……]
「あー……やっぱ嫌っスよね……」
俺……本当はちゃんとわかってる。
「っちは嫌だろうな」って、心の中ではちゃんとわかってる。
だからっちにくっ付けて嬉しく思う反面、困ってるのが凄く伝わってくるから……正直いつも複雑だ。
「やめれたらいいんスけど……出来ねぇんスわ好きすぎて……」
スマホには[うぅ……わ、わかったっス!っちの為なら!]と打ち込んではいるものの……なかなか送れなくて放置状態。
彼女の事を考えたら、抱きしめるのは我慢するべきだろうけど……どうしても俺は自分の欲に勝てない。
それにそうでもしないと……直ぐ誰かに取られそうだ。
「はぁ……ダメっスねこんなんじゃ……」
どうして俺はこんなに情けないのだろう。
今まで追われる事はあっても追いかける事はなかったから……どうしていいか全くわからない。
いくら自分がかっこ良くても、モデルというステータスがあっても、キセキの世代という名前を背負ってても……それじゃ全然意味がない事を思い知らされた。
「どうやったらいいんスか……教えてよっち……」
彼女の好みのタイプはありきたりな〝優しい人〟
ていうか今までっちに彼氏が居たことはない。
なんで?と以前聞いた時……っちは【よく知らない人からばっかり告白されてたから……】と言っていた。
俺からすれば、っちは容姿も性格もバッチリ。
告白なんて俺くらいされてるし、ナンパだって結構な数だ。
だから常に自分には焦りがある。
早くしないとっちが手の届かない場所に行ってしまう。
そう考える日々だ。
「……ごめん、今日はもう返信出来ねぇっスわ……」
抱きしめないと送って、実際守れなかったらっちが悲しむ。
そうはさせたくなくて……俺はあえてやり取りを止めた。
ハグしないなんて自信がない。
姿を見たら絶対したくなる。
なのに嘘を言ってしまってはダメだ。
そう、ダメだけど……こうして無言で逃げた俺は……
「ははっ……卑怯っスよね……」
第6章◆練習試合前日【終】