第1章 真夏の君 (影山 飛雄)
「ねえ、飛雄。」
俺の手をそっと握って、凪沙は言葉を選ぶようにゆっくりと話す。
「東京行きたいなら、来たらいいと思うよ。
バレーのことは分からないけど、私にできることはなんでもするし。」
「おう……。」
「東京に来てくれたら私も嬉しい。
でも、飛雄が決めることだから。
私は飛雄がどんな道を選んだって、応援するよ。でも……。」
凪沙はそこで一度言葉を止めて、俺の目を見て言った。
「この手は、離したくない。」
なんてね、と小さくごまかすように笑った。
「……当たり前だボケエ。」
俺は凪沙の手を強く握り返した。
「安心しろ。どこにいても、俺の人生でお前とバレーは特別枠だ。」
「なにそれ。」
精一杯格好つけたはずなのに、凪沙は声を上げて笑った。
俺は半ばヤケクソになって叫んだ。
「東京いってやるよ!親説得するの手伝えよお前。」
「いいよー。しっかり者の凪沙ちゃんがいるならってあっさりOK出たりして。」
凪沙はそう言ってスキップまでしやがった。
「んなわけあるかボゲエ!」