第22章 きっかけ(瀬見 英太)
さあっと心地いい風が吹いて、植木の葉を鳴らした。
「瀬見くん、ポジションどこ?」
唐突な質問。
「え、セッターだけど。」
早川に教えてもらったバレーを、早川がかっこいいと言っていたセッターを、今も続けている。そんなふうに胸を張って言えたら、どんなに良かったか。
「やっぱり。瀬見くんにはセッターが似合うと思ってたんだ。」
だけど彼女は、まっすぐに俺を見上げて笑った。
俺の複雑な胸の中を知ってか知らずか、彼女はゆったりと話し始めた。
「私ね、転校ばっかりだったから、どこででも友達はできたし楽しかったけど、お別れしたらみんな私のことなんて忘れちゃうって思ってて、そのことが悲しかったんだ。」
そんなことはない、俺は、早川のことはちゃんと覚えていたよ。と口を開きかけたが、それより先に彼女が言葉を繋ぐ。
「だからね、瀬見くんが、バレー続けてくれて、うれしかった。瀬見くんは覚えてないかもしれないけど、むかし」
「覚えてるよ。」
今度こそ早川の言葉を遮る。
「全部、ちゃんと覚えてる。俺が今、バレー続けてるのも、セッターやってるのも、あの日早川がいたからなんだ。」
忘れてなんかいない。
俺をバレーに導いてくれた早川が、バレーに苦しめられた今、もう一度俺の目の前に戻ってきた。
「ありがとう。」
早川が不思議そうに見上げる。
「あと、おかえり。」
俺が笑うと、彼女も笑顔で答えてくれた。
「ただいま、瀬見くん。」
「きっかけ」Fin.