第21章 affettuoso(孤爪 研磨)
明日も朝練があるし、また寝坊するとクロがうるさいし、早めに寝ようと思ってベッドに入ったら、やっぱり凪沙がやってきた。
今日みたいに風が強い日とか大雨の日も、彼女は俺のところにやってくる。
窓が音を立てると眠れないらしい。
「おいで。」
薄暗い部屋で呼んでやると何も言わずに彼女はするりとおれの隣にもぐりこむ。
「来ると思った。」
「またクロに怒られちゃうかな。」
「大丈夫。クロには内緒だから。」
ないしょ、と凪沙は口の中で繰り返して、ふふっと笑った。
「明日はクロが来る前に起きるよ。凪沙寝坊しないでよね。」
「うん、わかった。」
返事だけはいつもいいんだ。
間もなくして、寝息が聞こえてくる。相変わらず、布団に埋もれて俺に顔を押し付けて。
クロも凪沙も、どうして変な寝方をするのだろうか。見てるこっちまで息苦しい。
昼間のクロの言葉を思い出して、憂鬱になる。
ずっと一緒に生きてきたのはおれだ。凪沙は、おれがいないとダメなんだ。
……ちがう。
おれが、凪沙を手放したくないんだ。
たとえクロでも、凪沙のことは渡したくない。
どこにもいかないで。誰のものにもならないで。
さっきおれが乾かしてあげた髪の毛に顔を近づけると、ほんのり甘いシャンプーの香りがした。
おれの髪からも同じ匂いがするんだろうなと思うと、泡立った心が少し落ち着いた。
今夜も、夢であの猫に会えるだろうか。
「affettuoso」Fin.