第2章 ハッピーアンブレラ (日向 翔陽)
何言ってんの俺。早川困らせてるじゃん。
でも止められなかった。
「早川は昨日、俺のこと男じゃないみたいって言ったけど、
俺ちゃんと男だし、こういうこともできるし!」
少し屈んで、視線を早川の高さに合わせる。
「日向?」
その瞳は不安そうに俺を見つめる。
俺は恐る恐る、その唇に自分のを重ねた。
静かに顔を離すと、早川は驚きで動けないようだった。
「日向?」
かすれた声を絞り出す早川。
「ごめん。俺、早川のこと、好きだから。
男じゃないみたいなんて、言わないでよ。」
心臓はバクバクだし、顔だってきっと真っ赤だし、声も上ずっている。我ながら情けないけど
俺は精一杯の勇気を振り絞ってそう告げた。
でも、冷静に考えたら俺はすごく彼女を傷つけたかもしれない。
そう思ったら急に怖くなった。
「ごめん。嫌だったよね。ほんとごめん!」
「ちがう。びっくりした。」
慌てて平謝りする俺に、彼女は首を振って否定する。
「あと、嬉しかった。私も、日向のこと、好きだから。」
早川は頬を赤らめてはっきりとそう言った。
「男じゃないみたいって言ったのは、
男の子って大きくてちょっと怖くて、
緊張しちゃってうまく話せないけど、日向にはそういうのがなくて話しやすくて一緒にいて楽しいっていう意味だったの。」
一生懸命そう説明する彼女がかわいくて、嬉しくて、俺は頭の中がグルグルする。
「で、でも、好きな人とは相合傘とかできないって……。」
「それはっ日向が相手なら、特別に勇気を出せるっていうことなの!」
「はあああ……。なんだよそれ……。」
俺は急に力が抜けてその場にしゃがみ込む。
俺の持つ傘の中にいた早川も一緒にかがむ。
「日向……?」
彼女が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「ああ、ごめん平気。なんでもない。」
俺は傘で周りから隠すようにして、
もう一度早川にキスをした。
さっきより少しだけ長く、彼女のやわらかさを味わうように。
『ハッピーアンブレラ』Fin.