第15章 そんなふたり(岩泉 一)
「……おい、お前、まさか……。」
真っ赤にした顔を両手で覆う早川を見て、さすがの岩泉も事態を理解した。
「ごめん。ごめんなさい……!」
平謝りするしかない早川。
「ふざっけんな!こんなタチの悪い嘘、ついていいと思ってんのか!?」
椅子から立ち上がって岩泉は怒鳴った。さすがに病院なので、声の大きさは抑えたが。
「本当にごめんなさい。」
今にも泣き出しそうな声で早川は何度も謝った。
「どうしてこんなことした。」
「……岩泉君が、私のことどう思ってるのか、知りたくて。」
怒っている岩泉におびえきった様子で、早川は声を絞り出す。
「それで俺を試したのか。」
「ごめんなさい。」
「こういうの、すげえ不愉快。」
「すいませんでした。」
ベッドの上で俯いている彼女を見下ろす。
(……どうせ及川が入れ知恵したんだろうけど。)
脳裏に彼の腹立たしい笑顔が浮かんで、舌打ちする。
すると、それが自分に対してのものだと勘違いした早川がびくりと肩を震わせた。
「凪沙。」
俯いた彼女の顔を両手ではさんで、ぐいっと上に向ける。
「え?」
目線をしっかりと彼女に合わせる。
「何ともなくてよかったよ。心配させんな、ボケ!」
相変わらず乱暴な口調だが、彼の表情からはもうあまり怒りは見られない。
早川が、もう一度小さく謝ると、岩泉は一度大きく息を吐いてから口を開く。
「そんなに知りたいなら教えてやるよ。ただし一回しか言わないからな。
だからもうこんなバカなことすんな。」
「……岩泉君?」
「俺は、お前のことが、世界で一番好きだ。大好きだ。」
そうはっきり言い切ってから、彼女のことを抱きしめた。
優しくて力強い腕に包まれて、早川は胸が苦しくなるほどの幸せを噛みしめる。
「私も、大好きだよ。」
早川が、ぎゅーっと背中に回した腕に力を込めると、
岩泉はその大きな手で、何度も彼女の頭をなでた。
「そんなふたり」Fin.