第10章 きまぐれロマンティック(月島 蛍)
その時、
「凪沙ー!瑛多君のドラマ始まったわよー。見なくていいのー?」
階下から凪沙の母親の声が届いた。
「あ、忘れてた。今いくー!」
そう返事をすると、彼女は僕の腕からするりと抜けだして、部屋から出て行ってしまった。
(えー……?)
残された僕は、一瞬何が起こったのか分からなかった。
やり場のない緊張と興奮を鎮めるために、
ベッドにあおむけになって天井をぼんやり眺めていたら、
パタパタと足音が戻ってきた。
カチャリとドアを開け、凪沙が顔をのぞかせる。
「なに、忘れ物?」
僕は上体だけ起こして彼女の方を向く。
「ううん、おやすみ言ってなかったと思って。」
そろそろと彼女は近付いてきた。
ベッドに座る僕と、立った彼女の視線の高さは同じくらいだ。
「おやすみ、蛍君。」
そう言うと、彼女は素早く僕の頬にキスをした。
それから、凪沙は真っ赤な顔を隠すようにして、部屋から逃げて行った。
僕はさっきとは別の意味で呆然とした。
凪沙は何もわかってない。そう思っていたけど、意外とそうでもないのかもしれない。
「きまぐれロマンティック」Fin.