第9章 ここにいる理由③(黒尾&孤爪)
「え、なにそれ聞いてない。」
「俺も、この前やっとのことで聞き出した。
あいつそう言う話するのすげえ逃げるから大変だった。」
その言葉に早川はクスリと笑う。
「わかる。あ、でも酔うと少し口数が多くなる気がする。」
あの日のことを思い出して、早川は少し胸がざわついた。
「よく知ってるな。
研磨そんなになるまでお前の前で飲んだことあったっけ?」
「ううん。そういうわけじゃないけど……。
なんとなくそんな気がしただけ。」
少し失言だったかなと思いながら早川は言葉を濁した。
「まあ、そんなわけだから、良かったな。ナギ。」
「は、なにが?」
「研磨に彼女ができなくてよかったなーって。」
からかうように黒尾は早川の頭をポンポンとなでた。
「もう、昔の話だからねいつまで引っ張るの。」
その手を振り払って早川はぷいっと顔を逸らす。
「はいはい。昔の話ね。」
黒尾は意味深に頷いて見せてから、こう続けた。
「俺は、昔の話じゃないからね。
今もナギのこと好きだから。忘れないでね。」
「そういうの、どう反応したらいいか分からないんですけど。」
早川が困った顔をする。
「まだ何も反応しなくていいよ。ナギが一番俺にキュンとしたタイミングで言うから。
俺は負け戦はしないタイプだから安心して。」
そう言って黒尾は早川の額に軽く口付けた。
「……け、けんまー!クロがセクハラするー!」
少しだけ顔を赤くして、早川はばたばたと家の中にいる孤爪に助けを求めた。
「ナギうるさい。クロもめんどくさいことしないでよね俺今忙しいから。」
「忙しいって、ゲームがか。」
黒尾に指摘されて、孤爪は当たり前のように答える。
「そう。ゲームすごい忙しい。」
そう言ってソファに逃げ込む孤爪に二人でちょっかいを出す。
「研磨ーゲームばっかしてないで俺たちと遊ぼうぜー。」
「研磨、これ新しいやつ?この前のはもう終わったの?」
「もう、ほんと二人ともやめて邪魔。」
孤爪は文句を言いながらも少し楽しそうな顔をする。
閉め忘れたカーテンの隙間から、月明かりが差し込んでいた。
「ここにいる理由」Fin.