第1章 オレンジ
高校生活も1年目が終わりを告げ、2年生になって2ヶ月目が終わろうとしている5月末日の放課後。
はやく帰りたい気持ちを抑えながら、
私は新たな生徒会のメンバーに、校内を案内していた。
…はやく帰りたい。
帰ってはやく、小説の続きを読みたい。
今月の中旬に発売された小説『オレンジ』は、
私の大好きな小説家の新作で、
バスケットに青春を捧げる青年達の物語が描かれている。
主人公の【修二】と、因縁のライバル【遊馬】との試合シーンを前に、昨日はお風呂の順番が回ってきて、
続きを読み進められなかった…。
はやく読みたい。
「あの〜……、先輩?」
「あっ、…なに?」
呼ばれて振り返ると、なんともいえぬ顔で、下級生が私を見ていた。
「まだ開きませんか?体育館の鍵…」
あっ、そうだった!
ふと手元を見ると、そこには施錠用の鍵があった。
本のことで頭がいっぱいになって、
自分が体育館の鍵を開けて、館内を案内しようとしていたことが、頭の隅に追いやられていたようだ。
まったく……。
本来なら、新1年生のオリエンテーションは、生徒会長が行なうものなのに……
「わりぃ!今日バイトなんだわ!清宮には変われねぇし……、1年のオリエンテーション頼む!!玉利!!」
会長は、2年の教室に駆け込んできて、
その言葉だけを残し、すぐに去っていった。
…そもそも、副会長の清宮先輩に変われないのは、お前の都合だろう。と言いたい。
要は、用事を無理やり押し付けて、清宮先輩のなかでの自分の株が下がるのがイヤなのだろう。
…だから私に押しつけたのだ。
生徒会書記の、私に。