第10章 前に進んで
「そのまま、聞いて」
「名前?」
「あたしは…この世界の人じゃない。それは十分知っているでしょう?」
「…ああ」
「…あたしがいる世界では、征十郎がいるこの世界について描かれている本がある」
「!」
「…ただ描かれているのは断片的に…中学から高校1年のWC、テツヤの誕生日までを…誠凛重視で描かれている
あとは今回のJabberwockと戦うとこだけ。今、は
あたしはその度、その話が途切れるたびに消えて…最初、もしくは途中からここの世界に来ている」
「つまり、それは」
「…もうこの世界には来れないかもしれない。みんなに、謝っといて…けどあたし、この記憶、書くから、続き」
そう言った時、彼の呼吸が一瞬荒くなったのを感じて、今まで騙していたことへの罪悪感が溢れてきた
でもそれよりも、今伝えなければきっと後悔するであろうことが、ある
「バラバラになるはずだったキセキの世代をまとめた所…いや、その前に私の存在自体がいるはずのないものだった」
「…あの、記憶のものか」
きっと彼が言っているのはWC決勝まで普通になっていたあの記憶の事で、理解しているのだとわかった
「お前は何を言いたいんだい?」
「わかってるでしょ?征十郎なら」
「…わからない、な」
きっと、わかっている。それを認めていないだけで。ならあたしからちゃんと直接伝えようと思って、今度こそ彼の目を見て話そうと思って笑みを浮かべながら顔をあげた
「あたしが戻ってこなくても、待たないでいて」
「…」
「この世界に来れて、キセキの世代と仲良くなれて…まとめられて、認められて、たくさん一緒に過ごして、征十郎と付き合えて…あたしはもう、十分すぎるほど夢を見たよ」
「名前」
「だから征十郎、もうあたしのことは忘れて…前に進んで」
そう言って背伸びをして、彼の瞼に唇を落として、彼の胸を中学校の体育館で消える時のように強い力で押した
「名前!」
倒れていく彼の顔を見ながらあたしは溜めていた涙をもういいかとボロボロ流して、笑った
「さよなら、征十郎」
そう呟くと手にヒビが入り、割れた。
バラけていく自分の身体を見ながら、遠のく意識に身を任せた