第7章 廻り始めた歯車
沖田side
「この道50年、オンボロの本屋ではありますが地域の皆様に愛され、やって来ています。」
「そりゃ、その道のプロですねィ。」
ふっ、と沖田が先程とは真逆の笑みを浮かべる。立花もそれに満足したのか、近くにあった二つの椅子を指差した。
沖田と山崎は一度顔を見合わせたあと、そこに座る。
年期が入った椅子は不快な音をたてながらも、二人のそれぞれの体重を支えた。
「何か用ですかな?」
二人が座ってすぐ、眼鏡をかけ直した立花が二人を見据え、問う。
山崎は今までと同じように、写真をとりだした。
「この男、見たことありませんか。」
立花は写真を受け取り、目を細める。
その眉が微かに動いたのを、沖田は見逃さなかった。
「知ってますかィ?」
相手は一般人だと言うことを肝に命じながら、彼に問う。職業柄尋問のようになってしまうのは、見逃してほしいところだ。
「……彼が何かしましたか?」
「それは答えられませんねィ。」
二人の間に不穏な雰囲気が流れる。
しかし、相手はすぐに何かを察したのか写真をおき、肩をすくめた。
「雨宮君でしたか、先日の姫様誘拐事件の犯人は。」
やっぱりと言う表情を立花は浮かべる。
哀しみを織り混ぜた複雑な表情だった。
「彼について何か知りませんか?」
山崎は真剣に問うと、立花は目を伏せた。
皺のよった瞳が反射して輝く。
この様子じゃただの客ではなかったのだろうと、沖田は思った。
実際その通りだった立花は哀しそうにだが、私情を押し込めたように話し始めた。
「彼はいつも女物の雑誌を見ていました。」
「女物?」
立花は沖田の言葉に対して首を縦にふる。
「大切な人にいつも着物を贈り物にするのだと、言っていました。」
沖田はそこでハッと、目を見開いた。
彼のしていたことが理解できたからだ。
「けれど自分はそういうのに疎いから勉強するのだと。喜んでほしいのだと。」
あいつは、着物が好きだった。
綺麗な可愛い着物が好きだった。
「自分のせいで
________着なくなってしまったから、と。」