第7章 廻り始めた歯車
沖田side
「……おや、真選組じゃないか。」
しゃがれた声に驚いて振り向くと、シワを重ねた老人がレジに座っていた。
眼鏡をかけており、その奥の瞳が鋭利に輝く。
「そうでさァ、なんか困ることでもあるんですかィ?」
沖田はにやりと口角を上げて見せた。
彼が攘夷浪士を匿っているならば、容赦しないと言う意味を込めて。
しかし、沖田の予想に反して楽しそうに老人は笑った。
ただ馬鹿にする笑いでもなく、本当に心から楽しそうに、子供のように。
そして、老人は自分の手を少しあげた。
顔と同様、そこにも皺は刻まれており、年齢を感じさせる。
「こんな老体が攘夷浪士など匿えるわけあると思いますか、生きるので精一杯です。」
穏やかな声で老人は言葉を紡いだ。
声には厚みがあり、柔らかさを持っていて。
諭されている、そんな感覚を沖田と山崎に持たせた。
しかしそこに不快な思いは一理足りとも存在しない。
「ここの店長さんですか?」
山崎が老人を見ながら尋ねる。
老人は鼈甲の眼鏡をとり、懐から紙を取り出した。
優雅な手つきで、何度もこうしてきたのだろうと思わせるのには十分な動きだった。
そして、口を開く。
「いかにも、私がこの書籍屋"夕顔"の店主、立花菊蔵ですよ。」
いらっしゃいませ。
暖かな笑顔を向けられる。
取り出された紙は夕顔の花が描かれた、"立花菊蔵"と書かれた名刺だった。
名刺を差し出した人物はいなかったため、驚いて彼を見れば、その老人_______立花菊蔵は愉快そうに笑っていた。
客を迎えるように。
ただ、笑顔で。