第6章 【幕間Ⅰ】 雨龍とは
宗side
あれから、数年。
"宗。千里がまた。"
朝食を作っていると、雨龍が裾を引く姿が目に入った。
手を止めて彼を見ると、視線を千里がいる寝室の方向に寄せている。
"少し覗いたけれど、家族の夢を見てる。邪魔はよくないけれど、泣いている。"
「またか。」
かちり、とコンロの火を止め、寝室に近づく。襖を開ければ、苦しそうに眉根をよせて眠る千里がいた。
"いつもの通りに。"
「全く、お前が教えてくれたって言うのはまたダメなのか。」
顔をしかめながら、宗は千里の側に座り、彼女の額に手をのせる。
自然な動作だ。
"彼女は私の主でない……けれど彼女の憎しみは彼女さえも壊しかねないほど大きい。"
「俺よりも、か?」
その嫌みのような宗の言葉に、雨龍は静かに首をふる。
"あなたの憎しみは他人への憎しみ。けれど彼女は……
自分への憎しみと言う狂気を孕んでいるから。"
その言葉を聞いてずきり、と宗の胸に鈍い痛みが広がる。
彼女は自分が何もできなかったことに対しても、自分を憎んでいた
宗はどちらかと言うと他人への憎しみが大きい。ある意味守れなかったのは宗も同じだが。
彼女の憎しみは彼女へ矛先を向けている。
憎しみを柱としてその息を繋いでいた。
復讐するのが生きる目的。
それを亡くしたらきっと。
"宗は千里を愛しているのですか?"
突然、雨龍が宗を紳士に見つめ、口を開く。
別の考え事をしていた宗は驚きで
「は!?」
と、大声を出した。
そんな宗を見て、雨龍はしかめっ面をする。
宗は焦って千里を見ると、千里は苦しそうな顔はしつつ、その瞳を閉じていた。
「あぶねーな。いきなりなんだよ……。」
睨みつつ、言葉を漏らすと雨龍は少年とは思えぬ妖艶な笑みを見せた。
"ただの興味です。問うまでもありませんか?"
「……こんのマセガキ。」
"私の年齢を聞きたいですか?少なくともあなたの30倍はありますよ。"
「お前ショタなのか?少年の格好して。」
"まさか。"
彼は笑う。
回りから見ればただの独り言で気味が悪いだろうが、今は誰もいない。
宗も気にせずに言葉を紡いだ。