第6章 【幕間Ⅰ】 雨龍とは
宗side
"キスは出来ますか?"
「おいちょっと待て。何で話を元に戻す?」
"何を言っているのですか?私がショタではない証拠など私が言葉にする以外ないではありませんか。"
それをあなたが納得する形にするのは時間の無駄です。
そう雨龍は付け加えて、爽やかに笑う。
黒い笑みを感じないわけではないが、彼の正体はなどないも同然。
同じ土俵ではない相手に、証拠など求められるわけではない。
彼は正論を言っている。
ならばこちらは邪道な手を使って見せようか。
「出来ると言ったら?」
含み笑いを宗は口許に浮かべた。
暗にできるとは言うつもりはない。
手のひらで転がされるのは嫌いなのだ。
"そうですね。貴方の場合それだけで止まるとは思いませんが。"
だが、やはり少年のが上手のようで際どい発言をし、宗は押し黙った。
格が違う、まともにやりあったら揚げ足ばかり取られそうだ。
「……出来るよ。お前の想像通りに。」
渋々言葉を紡げば、満足そうに少年は笑った。心から嬉しそうに。
"では、私からもヒトツ言っておきましょう。"
なんだよ、とぶっきらぼうに宗は言う。
"私が彼女の前に姿を現さないのは、彼女が嫌いだからではない。私が彼女の容態が悪くなったときあなたに知らせるのは、彼女を恐れているからではない。"
淡々とした、抑揚のない口調。
淀みのない言い方が説得力を感じさせた。
"私が貴方に彼女の容態を教えるのを黙っててほしい理由はただヒトツ。"
少年は目を伏せた。
たまに彼が見せる仕草の一つだった。
"似ているのですよ。近づくことで失った、あのヒトに。"
そう言ってふっ、と消えていく。
またいつもの住みかに戻ったのだろう。
意味深な言葉を残して。
「喰えねぇガキだ。」
宗は荒っぽく吐き捨てる。
しかし、内心動揺していた。少年もやはり、生きていたことがあったのだろうか。
本日の天気は、雲一つない晴れ。
特に用事もない。
今日は桜をあしらった新しい着物を出してやるか。
嫌な気持ちを打ち消すように宗はひとりでに呟いた。