第6章 【幕間Ⅰ】 雨龍とは
宗side
"起きなさい。"
澄んだ声が聞こえて重たい瞳をあけると、目の前に透けてしまいそうに華奢な少年が現れた。
自分と同じくらいだろうか。
そんなことを考えながら起き上がると、右腕に激痛がはしった。
「い"っ……!」
"あぁ、一時的に手当てはしました。まぁそのうちに腐りますよ、右腕は。"
結構重大なことを、まるで明日の天気を伝えるように淡々と言う。
「腐っ……!?」
驚きで右腕を見ると、ぽわぽわと優しい光を纏っていて、再度驚く。
しかし少年はそんな宗の様子を構うことなく、怪しげに口角をあげた。
その姿に背筋にぞくりとしたものが這うが、強気に構える。
「ここはどこ?」
少年から視線をはずさず問うと、少年ははっきりとした凛とした声で、
"憎しみの最果て。"
と、答えた。
憎しみの最果て……?
宗は少年の言葉を反芻する。
少年は続けた。
"全人類が抱く憎しみの一番深いトコロ。言うなれば……憎しみの根元であり、限界。この世ではない異次元の世界。"
異次元の世界。
自分自身に有り得ないことが起きている。
それだけは理解した。
しかしその奇想天外な出来事を宗は自然と受け入れていた。
まるで、こうなることを知っていたかのように。
少年はそんな宗を満足そうに見やると、両手を挙げ、声を高らかに出した。
"私の名は"雨龍"。憎しみを糧に生きるもの。"
それを聞いて、胸が高鳴り喉から熱いものが込み上げる。
なぜ自分がここにいるのか分かった気がして。
_________あぁ、そういうことか。
"宗……私と契約を結びませんか。……いえ、言い方が違いますね。"
ドクンドクンと確かに自分の心臓が動いているのを感じた。
冷えきっていた指先に暖かみが残っていく。
心の奥底から沸いてくるのは憎しみと興奮。
目に焼き付いている相手を獰猛な獣のソレで思い浮かべた。
"宗、あなたの憎しみを私の力に変えなさい。
あなたの復讐を完遂させましょう。"
断る理由などない。
宗は子供っぽさを失った、憎しみに染めた姿ではっきりと頷いた。
瞬間、まばゆい光か右腕と腹を包む。
傷は癒えていった。
"宗、よろしく。"