第5章 桜並木に包まれて
近藤side
「電話?」
怪訝そうに土方が問えば、思い出したようにお妙はあぁ、と溢した。
「途中電話がかかってきて帰られてしまったんです。相手は酷く興奮していたみたいで、電話越しにも泣いているのがわかりました。女の声でしたよ。」
沖田がひきつったように肩を揺らした。
土方も興奮からか、お妙の肩を掴む。
お妙は驚きで目を丸くするが、何かを察したのか、ゆっくり言葉を続けた。
「途中……名前を読んだんです。
____________千里、大丈夫だって。」
場が静けさに包まれる。
皆が希望を見つけたことを感じたのは少しあとのことだった。
「名前は!?」
沖田が回りに大声で言えば、近くにいた黒髪の女性が、
「アメミヤソウ、と名乗っていました!」
「偽名の可能性は!?」
「店内にはいられるとき、年齢を確認しました。保険証でしたから、偽名ではないと思います!」
飲酒の年齢確認がこんなところで役立つとは。総吾に飲ませてる俺がいうことじゃねぇが。
隊員たちが沸き立つ。
自然と指揮が高まっていくのを、肌で感じていた。
それと同時に、松平を近藤は見た。
彼は酒を一口含んだあと、言葉を放つ。
「将軍の妹君を誘拐した犯人に真選組が肩入れをしている、裏切るかもしれない、そんな噂が流れてやがる。揚げ足、取られんなよ。」
「とっつぁん……。」
酒が不味くなった、と独り言のように松平は言うと、出口に向かっていく。
そして、あと一歩というときに言葉を残した。
「総吾。そんなに大事な女なら、守って見せろ。」
沖田が目を見張り、震えながら敬礼をする。
先程までの態度は、そういうことかと納得した。あれが、幕府の重臣達が言っている言葉そのものだと。
つまり、表だって手伝うことは彼の立場上できないのだろうが、応援はしている、というメッセージなのだろう。
ここまでの情報も、もしかしたら一人で捜査してくれていたのかもしれない。
まぁ、酒を飲んでたまたまた掴んだ可能性も否めないが。
しかし、千里の名前を覚えていたからわかったこと。気にかけていてくれたのは事実だ。
心が、昂る。
「山崎!帰って資料取り寄せろ!」
「はい!局長!」
近藤の声に呼応し、皆が慌ただしく、動き始める。