第5章 桜並木に包まれて
近藤side
「え、男!?」
驚いて声を張り上げると、そうですよっ!と言葉をお妙は続けた。
近藤は呆けて口をぽかーん、と開ける。
しかし松平はあらかじめ聞いたことがあるのか、何も言わずただ酒を飲んだ。
「お、お妙さんどう言うこと……!」
焦りつつ言葉を紡ぐと、近くにいた金髪の女性が笑いながら話しかけてくる。
「違いますよっ!女もいるみたいでしたし。それに言い寄られたってより、近藤さんの事を聞いていましたよー。ストーカーに困ってるんですかって。」
ストーカーじゃない!いつもならそう言っていただろう。
しかし、その言葉にハッとする。
俺の事を聞いていた?
「どう言うことですかィ?」
沖田も同じことを思ったのか身を乗り出して、その女性に尋ねる。
女性は頬を染めつつ、言葉を続けた。
「そうだなぁ、二ヶ月くらい前?とっても綺麗な男の方が来店したんですよ。初対面なのに妙ちゃんを指名して、近藤さんの話題になって。」
「ストーカーの話になったのっ!」
猫のように毛を逆立たせながらお妙は叫ぶが、誰も耳にも止めない。
近藤でさえ、聞いていなかった。
「沖田さんの活躍や、土方さんの鬼っぷりとか?監察の話とかにもなってましたよ。」
ねぇ、妙ちゃん、と女性が確認をとる。
「何でそんなに知ってるの?」
少しすねた風にお妙が言えば、女性はあっけらかんと、
「だってイケメンだったんだもの~気になるじゃない。」
つまりは盗み聞き、そういうことだ。
お妙にとっては不本意極まりないだろうが、近藤たちにとってはその男が今回のことに関わっている可能性が高いと思わせるのに充分な材料だった。
「他には?」
いつのまにか土方もお妙の側により、腰を屈める。
「他ですか?特にありませ」
「お妙さん。」
そこに、静かに聞いてきた松平が口を開いた。不穏な空気が一瞬流れる。
______しかし、次の彼の一言は可能性を100%にする手懸かりのきっかけになった。
「話してやってくんねぇか。
電話の相手の女の名前。」