第5章 桜並木に包まれて
近藤side
あの時に負った傷は既に癒えた。
しかし、心の傷は依然として癒えていない。
あの日から何度も何度も近藤は考えていた。
沢山の後悔を必死に押し止めながら。
何度も発狂しそうになるほど、苦しんでいた。その中でも、そうなることなく指揮がとれるのは土方や沖田も同じ気持ちを抱えていたからだ。
絶対に見つけてやる。
そんな感情を肌でひしひしと感じていた。
特に沖田は真面目に仕事をしている。
苦悩を抱えながらも。
あの行動は全て千里を見つけたあと、すぐ動くため。
雲ひとつない真っ青の空のもと、近藤は思案しつつ、ため息をついた。
「近藤。準備できたか?」
そう、真面目に皆が働いているのだ。
真面目に働いているなかで……。
「よし、いつものキャバクラ行くぞ。」
ふざけんなっ!
心の中で叫んだが、口では、はい、と返事をした。これも付き合い、仕方のないことだと先程沖田にも土方にも説得したばかりだ。
自分がそんなことをぐずるわけにも行かない。ましてや相手は上司の松平で、千里の事を正直どうでもいい、と思っているのだから。
土方も近藤も肩を下ろしながら渋々ついていく。沖田に至っては不機嫌なオーラを醸し出しており、虎が飢えているかのように近づいたら殺されそうな勢いだ。
そんな姿を松平は一瞥し、言葉を放つ。
「いい加減にしろお前ら、お前の仕事はなんだ?同郷を庇うことか?」
ふて腐れた沖田に苦言を浴びせる松平。
その顔は赤く染まり、本能で抜刀しかけるが、それを察知した土方が沖田の刀を抑える。上司達の火花が散るような状態に、沖田の心とは逆にその場が冷えていった。
「ふざけるな……。」
「なんだ?違うのか。自分の女は特別扱いで頑張るなんて虫がいいだろ?」
獣が唸るように沖田が言えば、飄々と松平は言い返す。
隊員は凍りついたように動かない。
土方も怒りを抑えようとしているが、どちらにも反論できずに困っている。
松平の言うことは正論だ。
特別扱いをしているのは事実なのだから。
けれどそれでも私情が出てしまうのは仕方のないことなのだとわかってほしかった。
「……と、とっつぁん!行こうぜキャバクラ!お妙さんとも久しぶりだな~。」
上擦りながら近藤は手で招く。
冷や汗が背中を流れているが、この際どうでもいい。
止めなくては。
