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儚さゆえの愛しさで【銀魂】

第5章 桜並木に包まれて



千里side

少しして、柔らかな温かい手の感触を捉え、目をゆっくりと開けた。

見慣れた天井が写る。

視線をゆっくりと左に移せば、背中を向けながらも千里を撫でる宗がいた。

「……そ……う。」

掠れた声で彼を呼べば、宗はこちらを向く。
藍色の深い瞳が、千里を貫いた。

「……また、夢を見たのか。」

重苦しそうに躊躇いながら声をかける宗。
千里はそこではじめて自分が泣いていることに気がついた。

頬が涙の跡を残している。

「……姉上も、いたの。」

ずきずきと痛む頭をたたき起こし、宗と視線を同じ高さに合わせた。
着物に手を伸ばして、彼にすがり付く。

「どこにも……逝かないで……。」

強く、強く、彼の着物を握った。
顔を宗の肩に押し当てて、嗚咽を漏らす。
透明な涙が頬を濡らし、宗の着物も涙で広がっていく。

宗はゆっくりと右手を彼女の頭にのせ、引き寄せた。
そして、優しく撫でる。

細くてさらさらとした髪が、宗の指を通り、ますます彼女は力を強めた。

「どこにも行かない。」

強い口調で宗は言い切る。

「……千里を置いてはいけない。」

「約束、だよね。」

「あァ……。」

軽く、宗の肩を噛む。
布越しではあったが、きつく。

びくりと肩を宗は揺らすが、それっきり何も言わずに動かない。

少しして離れれば、今度は宗が千里の肩を噛んだ。

もちろん、着物越しではあったが。

「直にして……。」

震える声で千里が懇願するように言葉を紡げば、着物の片側が肌を滑る感触がした。

そして宗の目には、肩にある、大きな火傷の跡が写った。
それを付けた相手に対し、憤りながら宗は強くその肩に歯をたてる。

「……っ……!」

痛みで顔を歪める千里。
食い縛った歯から溢れるのは、痛みを我慢する声で。

でも、止めてとは一言も言わなかった。
理由はこの行動が二人の、紛れもない約束の証であり、贖罪の確認でもあったからに他ならない。

この二人に必要なのは、愛による温かさではなく、痛みだったから。

唯一痛みが自分達が生きている証拠だと、感じていたから。

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