第4章 "雪螢"
桂side
同志……か。
呟くようにして桂が言う。
そのなかで頭に浮かび上がるのは、懐かしい暖かな日々の思い出。
手が届く距離に仲間がいて、師がいた思い出。
彼は今、それを守ろうとしているのか。
ならば_______。
……同盟は、組めない。
桂の出した答えはコレだった。
宗は目を見開き、驚いたあと眉を寄せ苛立ちを露にした。
けれど、桂とて譲れなかった。
守りたいものは、守り抜ける保証はない。
失うかもしれない。
失ってからでは遅いんだ。
桂は空を見上げて言葉を紡いだ。
悲痛さが滲み、胸がチリチリと痛む。
それほどまでにあの風景は桂の心を今でも蝕み続けているのだ。
今ならまだ間に合う。手を引け。
本当に守るべきものがあるのなら。
今の幸せを噛み締めて、幸せになる努力をしろ。
桂は彼の意志も心意気も分かっていた。
それでも自分のように失う可能性の有るものに、体験させたくなかった。
ましてや、あんな瞳で浮かび上がる大切なものがいるやつに。
桂は踵を返すように、宗に背を向けた。
もう話す気はない、そういう意志を現わす。
俺の仲間は強いですよ。
すると、今度は自信に溢れた声が桂の耳をとらえた。つい振り向けば、猛獣を彷彿とさせるような彼がいて。
俺の仲間は守ってほしくないと言いました。
命を懸けて君を守る。そんな言葉が一番嫌いみたいです。
もし私を守りたいのなら、私も一緒に戦わせろ。そういうやつです。
牙を剥いているのでも、爪を閃かせているのでもない。けれど威嚇しているかのように溢れでるのは何なのか。
それでも、お前はその子を守るだろう。
話ぶりから相手を女だと察した桂は、眉を寄せる。しかし宗の方も譲らない。
アイツは言いました。
宗が死ぬくらいなら、この命を一緒に散らすと。宗が死ぬその瞬間に一緒に死ぬと。
憂いに満ちた目で遠くを見つめる宗。
俺は、大事な人を守るために死ねないんです。俺が死んだらアイツも死ぬ。
でも剣を振る俺にアイツは付いてきた。
ならば、どちらも捨てることなど出来ません。