第4章 "雪螢"
桂side
「期待するぞ。あの真選組を新人が出し抜くのはなかなかないことだからな。」
桂がそういえば、千里は桂を睨み付けた。ただ、憎悪などは含まれておらず、余計なことを聞いたら許さない雰囲気で。
桂は彼女の真選組との過去は知っていたため、聞く気などはなかったが。
その反抗的な瞳に、友好的なものは存在しない。
気に入らないわけではなかったが、本当に宗しか信用していないのだろうことが見てとれた。
……雨宮宗。
貴様は一体何者だ。
小さいとはいえ、この獣を飼い慣らすなんて。
宗と桂が初めて出会ったのはそよ姫誘拐の二日前のことだった。
真選組から逃げている途中に、現れたのだ。
桂は一瞬敵だと思い、刀を抜いたが、目の前の男_____宗は刀を抜かなかった。
代わりにいい放った。
貴方と、同盟を組みたい______と。
宗は不敵な瞳で桂を見つめ、口角をあげていた。
桂はいきなりのことに驚いたが、すぐに冷静になって考える。
彼が自分を殺す気なら既に刀を抜いているはずだ。
一番簡単であり、絶対的な情報を頭に思い浮かべる。そしてそれは彼に桂を斬る気がないという現れだった。
名は、なんと言う。
それでも警戒を解くこともなく、桂は試すような口調で男___宗に尋ねた。
彼はその桂の心中さえも見抜いたように、迷うことなく、自分を名乗る。
雨宮宗と申します。
年はまだ自分より年下か。
それだけは直感で分かったが、声色の起伏がなかったことが原因でそれ以上のことは分からない。
得体の知れない大きな闇に紛れて、彼は見つけづらくなっているのだろう。
それは死線を潜り抜けて、生き抜く術を学んだものの独特の雰囲気だった。
ただ者じゃない。
仲間になるわけではなく、同盟を組むだけなのか。
桂は少しでも情報を入手するため、彼の仕草を見つめる。やけに空気は冷たく感じられ、何かが下から這い上がってくる。
真選組に追われているのもほぼ忘れていた。
彼はそのことを知っていたのか、ちらりと回りを見たあとに、優しそうに微笑んだ。
俺には既に、一番の同志がいますので。
その顔は意志を感じる顔だった。
譲れないものを指し、守るべきものを示し、一片たりともくもりのない言葉。
桂は少なからず、彼の言い切った言葉に戦慄した。