第4章 "雪螢"
桂side
この子が噂のおなごか。
今、目の前には幼さを残した瞳で睨んでくる千里と名乗った少女がいた。
本当に此方に対する敬意というものを感じない。むしろ敵意を感じる。
宗にも信用をされているわけではないのは察していたが、こっちは言うまでもなかった。
「貴様はいくつだ?」
なるべく優しく尋ねれば、火に油だったのか嫌そうな顔をする。宗が微かにため息をついている事には、彼女は気がついていないのだろう。
「……どうせ、幼いとか思ってるんでしょ。」
子供扱いをされたと勘違いしている千里が嫌味っぽく言葉を放つ。
「千里、せめて敬語くらい」
宗が千里を咎めるが、彼女もそんなことでは引かない。むしろ、ますます不機嫌そうな表情を浮かべた。
「これが大事な同盟だってことも分かってる。けど、同盟だもの。下僕なんかじゃない。」
彼女が言っていることはある意味正しい。
自分達は平等であるだろうと、彼女はそういっているのだ。
そしてそれは、先程桂が言った立場の話の反論にも捉えられる。
「宗、と呼べばよいか。」
そっぽを向いた千里の隣で困っている様子の宗に言葉をかければ、少し動揺し、肩を揺らした。
桂はその姿から目を離すことなく、続けた。
「彼女の言うことはもっともだ。貴様も俺のことはさん付けをしなくてもいい。」
「……ですが。」
宗には、立場と言うものがどれほど大切かを理解していたため、何か言おうとするが、桂はそれをおさめた。
「そこまで器の狭い訳ではない。」
この大胆不敵な、若干失礼な女に興味を持った、と心の中で桂は呟く。
白磁の肌に大きな黒い瞳、長く清楚に揺れる黒髪。人を惹き付ける外見を持っていながら、揺るぎない自分の意思に従って動く姿はまるであの頃の幼馴染みに酷似していた。
この狂気ともいえる宗に対する執着はアイツの雰囲気そのもので。
「では、桂と呼びます。」
断ることに躊躇したのか、宗が仕方がないと肩をすくめながらいった。
その様子を満足げに桂は見たあと、
「貴様は千里でいいか。」
と、彼女を見ながら問う。
千里は厳しい目付きをしながらも頷いた。
「よろしく、桂。」
凛とした口調にまた胸がチリチリと痛む。
似ている、そんなレベルではなかった。