第4章 "雪螢"
千里side
妖刀"雨龍"。
雨を操る龍の一派であるとされているが、物語のほとんどがベールに包まれている。
「……"雨龍"、来い。」
宗が厳しい口調で命ずれば、刀がひとりでに不快な甲高い音をたてて反応する。
桂も顔をしかめるが、一瞬たりともそれを見逃そうとはしなかった。
千里も見慣れた光景ではあったが、つい肩が反応する。
「……何も見えぬではないか。」
少しして、桂が残念そうに肩を落とす。
やはり、桂には見えなかったのだろう。
「当たり前です。主人は宗ですから。私ですら見たことないのに。」
唇を尖らせるのを我慢して、不服そうに千里は言う。正直ホッとしていた。
もし桂に見えたら舌かみちぎってやる。
そんなやきもきした気持ちを抱えていた。
「千里。」
そんなとき、宗が千里の名を優しく、強く呼んだ。びくりと肩を揺らし、おそるおそる見れば、宗は唇を結んだまま、軽く手を重ねた。
すぐに離れていってしまったけれど。
……ばーか。
子供をあやすようでありつつも、恋人を気遣うような優しい仕草。
私と宗はどんな関係なんだろう。
何回も繰り返してきた疑問。
その答えはいつも"同志"だった。
その先に進みたい?
心の奥底に苦い思いが広がる。
もし、"同志"だけの関係なら復讐がすめば、全く関係のない他人に戻るのだろうか。
そのことを考えて、きゅぅ、と胸が切なくなる。
……やめよう。
そんなことを考えている余裕なんてない。
どちらかが死ぬかもしれない、そんな戦いなんだから。
躊躇っていたらやられる。
私たちは弱者に戻ってしまう。
千里は長く息を吐いた。
あの頃とは違う。
宗もいる。
私は……戦える。
「もうよろしいですか?桂さん。」
千里が再度決意を固めていると、宗が桂に手を差し出しているところだった。
桂にしたら情報不足もいいとこだか、宗はこれ以上話す気はなく、もし話せと言われたら関係を諦めそうな勢いで。
桂は思案した顔を見せたあと、やや呆れ気味に手を差し出した。
「全く、少しは信用してほしいものだな。」
「信用していますよ。貴方の立場を。」
嫌味っぽく宗がこぼせば、桂は苦笑した。