第4章 "雪螢"
千里side
「隠していることなど、ありません。」
内心冷や汗を背筋に流しながら、千里は答えた。
隠していることなら一つだけ思い当たりがある。けどそれは、絶対的な秘め事だ。
ごくり、と唾を飲み込む。
宗を桂に気がつかれないように盗み見ると、険しい顔をしていた。
眉をひそめ、未だ疑いながら。
すると桂は飄々と腕を組み、愉快そうに笑う。
「折角部下達を追いやったんだ。話してもいいはずだろう?同盟を組むのだから。」
しかしその瞳は笑ってはおらず、肉を狙う獣のように鋭く、威圧的なものだった。
宗と千里は片手で反射的に刀を触った。
千里の刀はひとりでに微かに震えている。おそらく、宗の刀も。
その事に対し、警戒する宗と千里。
すると桂は仕方がない、そんな表情をし、立ち上がった。
そして_____________……。
キィィィィィンッッッ!!!!
刃と刃が交わり、不快な音をたてた。
見れば、宗の刀がひとりでに浮き、桂の刀を受け止めている。
「宗っっ!!!」
悲鳴のように声をあげれば、千里の刀も呼応し、桂にふりかかった。
桂は千里に対しては無防備な状態だったため、剣筋を逃げる術はない。
斬ってしまう、その思いが心をよぎった。
「"雪螢"!!ダメッ!!」
必死に手を伸ばして刀をつかもうとしながら、懇願するように叫ぶ。
千里の刀は主人の想いに反応し、馮力を失い、糸が切れたからくりのように地に落ちた。
瞬間、宗は刀を掴み桂を撥ね飛ばす。
桂も予想していたようで一回転しながら、受け身をとった。
千里はどちらも傷ついていないことにほっとしたが、
「ほぅ……それが噂の"妖刀"か……。」
それも束の間。
直ぐに自分が嵌められていたことに気がつく。
「ちっ……。」
宗が相手にも分かる大きさで舌打ちをした。
自分達の油断が原因だろう、と本人も理解しているからだろう。
「嵌めやがったな。」
皮肉たっぷりに宗が言えば、心外だとでも言うような顔をし、
「やっと仮面が剥がれ落ちたか。どうだ、すべてを話してみないか。その"妖刀"とやらも。話してくれれば、検討の余地はある。同盟を組みたいのなら、誠意を見せろ。」