第3章 情報の共有 【Ⅱ】 消えたぬくもり
近藤side
あの子は俺の"喜び"だった。
小さいあの子が大きくなっていくのを見るのが楽しくて。
花のように無邪気に。蝶のように可憐に。
けれど、あの笑顔の裏にあったのは俺たちの想像を越えた覚悟だった。
____________________過去と罪の告白を千里がした、次の日のこと。
近藤は一人、千里の家を訪れていた。
来ようか何度も迷ったが、今来なければ二度と来ないかもしれない、そんな焦りが近藤に来る選択を与えた。
「千里、いるか?」
少し震えながら彼女の名を呼ぶと、彼女とよく似た、今は肩くらいしかない髪を靡かせた彼女の姉が現れた。
額には汗が浮かんでいて、先程まで作業をしていたのがわかる。
「こんにちは、近藤さん。」
「こんにちは…千鶴さん。」
挨拶を動揺しながらすると、千鶴はクスリと微笑んだ。紅葉の色をした唇が動く。
「千里が、言ったんですね?」
近藤が彼女の言葉に目を見張ると、彼女は近藤を真っ直ぐ見て、
「少し、場所を変えてはいただけませんか?」
断る理由のない近藤は頷き、二人は木陰のある庭先に移動した。
近藤は千鶴と話したことがないわけではなかったが、何を言おうか迷ってしまう。
すると、その近藤の動揺を感じ取ったのか千鶴が口火をきった。
「千里は、私のためにたくさんのものを捨ててきました。」
凛とした大人びた声。
「小さい頃からに動くことを得意としない私に変わって剣を習って、熱い鉄の前で働いて…。私はどれだけあの子に背負わせるんでしょうね…。」
目を伏せれば、千鶴に哀しみが翳る。近藤は何も言えず、ぐっと唇を噛んだ。
「近藤さん。お願いがあるんです。」
懇願する声が聞こえると同時に、千鶴が頭を下げるのを視界の端にとらえた。
「ちょ、千鶴さ」
「あの子を連れていって下さい。」
床に頭を擦り付け言葉を紡ぐ千鶴。
近藤はその言葉に目を見開き、驚く。
「あの子をっ……千里を解放してあげたいんですっ……!」
「千鶴さん……。」
「もう、いいんだよって。もう、好きなことをしていいんだよって。……もう、
自分で決めた道を進んでいいんだよっ……て。」
顔をあげた千鶴は涙ぐみながらはっきりと言った。
「姉上は大丈夫だからって。」