第3章 情報の共有 【Ⅱ】 消えたぬくもり
沖田side
何度思い出しても、人に語っても、動揺はしてしまうものなのだと、改めて認識した。
銀時に彼女の過去を話し終えた後、沖田は俯いた。
泣くな。ツラいのは俺じゃねェ。
千里はあの後、立ち上がり何も言えない沖田たちを置いて帰っていった。
呼び止めることなど、出来なくて。
止める資格なんかなくて。
答えはもう出ているから。
けど、それを沖田たちの目の前では言えないからアイツは泣いていたのだと。
離れたくなくても、家族は置いていけないと。
それがアイツの答えで。
「ははっ…ダッセェ…。」
________________近藤に一言いって沖田は、フラフラと家に帰る。
雨は降り続いていて、足元は泥だらけだったが気にせず歩いた。一歩一歩が、鉄のかたまりのように、重たい。
少しすると見慣れた、住み慣れた家が見える。いつもの風景だった。
扉を開けようとして手を伸ばすと、
"いつもと同じだった"
千里の悲しみが滲み出ていた声が耳の奥で甦る。
そうか、こんな気持ちだったのか。
ここを開ければいつもの風景があると信じていた。いつもと同じ笑顔の、家族がいると。
なのに。
耐えられなくなって嗚咽を漏らす。
身体中がヒリヒリとして痛み、頭が鈍器で打ち付けられたみたいに熱い。
もしこの扉の先に姉上が死んでしまっていたら、俺は、俺は……きっと耐えられない。
「総ちゃん?どうしたの?」
家の前で立ち尽くしていると、扉が開かれ、ミツバが顔を出した。
いつもの優しげな瞳が沖田を出迎える。
ミツバはその泥だらけで雨に濡れた沖田の姿を見て驚き、訝しげではあったが、小さい子をあやすような口調で問うた。
「総ちゃん……どうしたの?」
びしょ濡れよ、風邪引いちゃうわ。
優しく細い指が沖田の腕をつかみ、家の中に引っ張った。ふわりとミツバの甘い匂いが沖田の鼻をくすぐる。同時に夕御飯の美味しそうな香りがした。
もう、限界だった。
沖田は力を抜き、ミツバの肩に顔を当てた。
追い越してしまったため、首は曲がった状態だが、沖田は涙を流した。
いつもは弱さなど見せない弟の姿に戸惑いながらも、ミツバは沖田の背中をさすってくれる。
止まらない、止まるわけがない。
何も知らなかった、アイツのこと。
好きなのに。憎まれ口しかたたけなくて。