第3章 情報の共有 【Ⅱ】 消えたぬくもり
沖田side
「旦那は人を初めて殺したのはいくつでしたかィ?」
呟くようにして問うと、銀時は微かに肩を揺らして、
「忘れた。」
と、静かな声で答えた。
沖田も銀時を見ることなく、ちりちりとした痛みに耐えながら、寂しき気に言葉を紡ぐ。
「俺もでさァ……けど。俺が刀をふったのは死ぬか殺すかの選択があった。」
あいつは、違う。
普段なら出さない緊迫さを感じさせる声。
銀時も口を挟むことなく、耳をすませた。
_______________________千鶴は固まってしまった千里とは反して、買ってきた食材を男たちに向かって放り投げた。
それは見事に顔に命中し、その間に駆け出したと言う。
「私たちは全速力ではしったっ……とにかく町に行けば助けてもらえる!その一心でっ……!!!!」
けれど、当時から病弱だった姉と、小さな女の子が逃げ切れるわけもなかった。
手首を捕まれ、森に引きずり込まれる。
「ガキは趣味じゃねぇ、そう言って私を殴って蹴って……!けどっ、けどっ!そんなことよりっ……!」
合計で3人の男がいたと、その時に初めて気付いたと、理性のタガが外れたかのように叫ぶ。
「私を殴ったあと、男は全部姉上の所にいった!姉上はっ……!姉上はっ……!」
激しい雨が地面を叩きつける。
頬に流れるのは涙か、雨の粒か。
もはや、区別もつかない。
「千里……。」
近藤は一心不乱に語る千里を見つめ、名を呼んだ。拒絶された手は行き場をなくしたままだったが、再度彼女の頭に手を伸ばす。
しかしその時、フッ、と千里は自嘲気味に笑い、虚ろな瞳で近藤を見上げた。
真っ黒な瞳の中に光は存在せず、まるでとりつかれてしまったかのように。
「殺したの。」
有り得ないほど落ち着いた声で、先程とはうって変わった声で、千里は言葉を紡ぐ。
その言葉に沖田も土方も近藤も、一瞬理解ができなかった。風景がぐにゃりと歪み、足元が崩れていく、そんな感覚。
殺した……?
千里が、人を?
「姉上の、やめてって声が聞こえたの……無我夢中で……。守らなきゃ、それだけで……気がついたら……。」
ゆっくり、手を目の前に上げた千里はほんのりと微笑んだ。麗しく、病的な笑み。
その笑顔と、雰囲気に飲み込まれる。