第3章 情報の共有 【Ⅱ】 消えたぬくもり
沖田side
俺はあの時選択を間違えたんだろう。
彼女の優しさの裏に危うさがあることを分かっていながら。
目を背け、知らないふりをして、自分の我儘を通そうとして。
彼女に傍にいてほしいと願った。
分かっていたのに、答えなんか。
自分から切り出して、怒って、別れを最悪にして。
千里はどう思っていたのだろう。
__________________爪の先から血がにじみ始めても、着物がぐしゃぐしゃに濡れていても彼女は言葉を続けた。
「愕然とした。何が起きたかわからなかった!ただ姉上と繋いでた手を握りしめて立ち尽くしてた!」
当時をはっきりと思い出しているのか、千里の目はぎらぎらと血走り、手足は震え、空間は混乱と憎しみと慟哭が交錯した。
見たことのない、千里の表情。
聞いたことのない、千里の声。
体の芯が震えながらも、一言も聞き逃すまいと沖田はその場から逃げなかった。
心は既に暗い闇に覆われ、立っているのもやっとなくらいに錯乱していたが。
「忘れもしないっ!アイツ等はのこのこと奥の部屋から顔を出したっ!お金と着物、私のおもちゃのアクセサリーまで持って!しかもっ……!!!」
千里は拳を地面に叩きつけた。
どす黒い血と、土が雨と一緒に飛び散る。
額や頬にそれらがついたが見えていないのか、千里は払いもしなかった。
「私たちを……姉上を見てアイツ等はっ……!笑ったの!……っ……笑ったの!」
いい女がいるじゃねぇか、ガキはどうする?
染み付いた血の臭いと、独特の男の臭い。
それらが近くによってきて、千里は動くことができなかったと言う。
沖田、そして隠れていた土方の心に底知れない怒りが沸々と湧く。
「千里……もういい。」
しかし近藤だけが切なさを帯びる声で懇願した。
もういい、と。
聞きたくない、と。
そう言っていつもと同じように頭に手をのせようと試みた__________が、彼女はその手を思いきり振り払った。
ぴしゃりと、確かに音をたてながら。
「そうじゃない!!!」
風を裂くように、燃え盛るような火のように、鋭く大きく、うねりを立てながら千里は叫ぶ。
_____________それは、初めての拒絶だった。