第3章 情報の共有 【Ⅱ】 消えたぬくもり
沖田side
「旦那……聞いてますかィ?」
目の前には顔を赤く染め、心地良さそうに眠る銀時がいる。
こいつに話を聞く気があったのだろうか。
けれど、その気持ちとウラハラに何となく感じ取っていた。
姉上の時も同じだった……。
聞いていないフリをして。
きっと聞いているのだろう。
その気遣いに気がつかないふりをしながら、その気遣いに感謝し、覚悟を決めた。
自分の苦い苦い、後悔の残る別れと彼女の苦しい過去を語るために。
______________________雨は激しさを増していく。けれど、そこに縫いつかれたかのように一歩も動こうとは思えなかった。
今は聞かなくては、そんな思いでいっぱいで。
「近藤さんと出会う……三ヶ月くらい、前のことだった……。」
忘れもしない。
憎しみと悲しみが混ざり合った、聞いたことのない声が千里から発せられる。
「姉上と買い物に行った帰りのことだった……。」
千里は顔を伏せ、嗚咽を漏らす。
その姿は沖田の心も握り潰されてしまいそうなほど、小さくか弱いもので。
「いつもと同じ……いつもと同じだった。」
涙は流れていながらも、昔を懐かしんでいる様子の千里。
「私の家庭は裕福じゃなかったから……町の少し外れたところ……そこに、私たちの家はあったの……。夏は暑くて、冬は寒くて……。虫もいっぱいいて……あんまり住みやすくはなかった……。」
けれど、少しずつ千里の表情がこわばるのを見て、何とも言えない不安のような黒々としたものが迫ってくるのを沖田は感じた。
近藤も近くにいるのに、生きた心地がしなくて。
「そんないつもの家に帰ったの……私と姉上は……。」
瞬間、彼女の瞳に怒りの火花が散り、回りを飲み込む闇のような嫌悪を露にした。
寒気と恐怖、感じたことのないある種の高揚が混ざり合い、沖田を混乱に陥れる。
「けど血だらけだった!」
半ば絶叫するように、言葉を羅列していく。
「壁も床も血だらけだった!真ん中に母上が倒れてたっ!胸を貫かれて、服は乱れてたっ!近くで父上は母上を庇うように斬られてた!背後から一振り!」
壊れたカラクリのように、涙を流しながら憎しみで一杯の瞳をしながら、血を吐くように叫び続ける。