第3章 情報の共有 【Ⅱ】 消えたぬくもり
土方side
土方は千里が相談していた所を要所要所省きながら銀時に伝えた。
どれだけ彼女の存在が大きかったか。
どれだけ彼女が愛しかったか。
戦いに身を置きながらも、殺生を拒み、ただ守るためだけに剣をふろうとしてた千里。
確かに、特別な何かがあったわけではない。
けれど、暖かで優しくて、心安らかになれる空間がそこにはあって。
「何もない日常、それが幸せだった。」
その中心に千里はいたんだ。
___________________皆が騒ぐ中、足取りにふらつきを見せながら千里は道場を立ち去ろうとした。
沖田は興奮気味に近藤に近寄っていってしまったため、気が付いていない。
内心舌打ちしたい気持ちに駆られたまま、おもむろに手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。
「千里、大丈夫か。」
何に対しての大丈夫なのか、土方自身分からなかったが、とにかく顔色の悪い彼女にそう伝える。
彼女は力が入らない様子で、弱々しく首をふった。
「具合、悪いのか。」
そう聞くと、涙目になる。
もともと泣き虫ではあったが、そういう泣き方ではなくて。
切実に何かを堪えようとしていて。
「土方さん…離して…。」
静かに告げられる。
声は、震えていた。
ここでただ事ではないことに気が付いた人が、一人二人と振り返り、二人を見守る。
それに便乗するように、沖田も近藤もやっと気が付いたようだった。
「千里……?」
沖田が千里の名を呼ぶと、不自然に彼女の肩が跳ねた。まるで、見られてはいけないものを見せてしまったかのように。
「そ……うちゃ……。」
千里は何かを言おうとして唇を噛み、俯いた。顔は見えないが、肩が震えていて泣いているのが分かる。
「……わ、たし。」
嗚咽しながら、必死に言葉を紡ごうとする千里。
その姿はあまりにも痛々しくて。
「…っ!」
それでも言葉にならなかったのか、千里は土方の腕を振り払い、駆け出していく。華奢な体が弾かれたように、土方から離れていく。
「千里!!」
沖田が彼女を追っていく。近藤も少し唖然とした後、二人を追いかけていく。
しかし土方は動けなかった。
何となく、共鳴したのを感じたから。
彼女の、気持ちと。