第3章 情報の共有 【Ⅱ】 消えたぬくもり
近藤side
「だからあの日から敬語をなくしたんですねィ。」
余計なことしやがって。
口調は荒いが、憂いの滲む表情をした沖田に近藤は切なさを覚える。
総悟はミツバさんを姉として慕っていた。
それは周知の事実。
けれど、千里のことを他の隊員に言おうとはしなかった。
もちろん、別れが酷かったせいだか。
近藤は浅くため息をつき、土方と視線を合わせた。
土方も近藤の思わんとしたことが分かったのか、静かに首をふる。
俺たちが話す必要は、ないだろう。
総悟が話すべきなのだ。
悪気はなかったとはいえ盗み見みてしまった、彼等の別れを。
______________土方という仲間が加わって二年たった頃。
「近藤さん、これ。」
随分と伸びた髪を、纏めることはせずに垂らすようになった千里に声をかけられる。
縁側に一人休んでいた近藤は視線をあげた。
稽古の休み中に話しかけられることは少なくなかったが、こわごわと恥ずかしそうに視線を絡めてくる千里の姿を不思議に思う。
「どうした?」
そう問うと、すこし唸った後、唇を開け、また閉じる。
「ん……と。あのね。」
「ん?」
優しくまた問えば、今度は決心したように
「はい!あげる!」
「げふっ!」
大きな声と一緒に、いきなり拳を近藤の胸に当ててきた。
思ったよりの威力に驚き、近藤はむせてしまう。
「うわっ!ご、ごめんなさい!」
慌てて千里が謝るが、大丈夫と近藤は答えることができず、また千里を慌てさせる。
すこししてやっと咳がおさまった近藤は千里を見ると、千里の瞳は潤んでいた。
近藤はギョッとしながら、
「大丈夫。」
と答えると、千里は眉を下げてごめんなさい、ともう一度いった。
肩を縮め、申し訳なさそうに。
「大丈夫……で、これ何?」
話の内容を変えようと先程猛烈な拳が飛んできたところを見る。
そこには茶袋が着物の襟の部分に入っていた。
「あの、お礼……。」
「お礼?」
「稽古を、してもらってるから……。」
恥ずかしそうにうつむく千里を横目に、中身を確認すると。
「……首輪?」