第1章 出逢い再び
千里side
ここで千里は隣にいる一国の姫様に声をかけた。
着物はお出掛け用らしく、上質ではあるが簡素でもあった。
「ねぇ、そよ姫様。タンポポ好き?」
いきなり名を呼ばれたそよ姫は、びくりと肩を跳ねさせた。顔色は悪く、青白い。
迫り来る恐怖と必死に戦っているようだ。
当たり前か…、と千里ひとりでに思う。
誘拐されて落ち着いていれる人なんてそういない。ましてや、花よ蝶よと大事に育ててこられた苦労を知らない姫様だ。
「タンポポ……ですか?」
震えながらも返答をしようと言葉を紡ぐそよ姫。声は掠れ、震えていて。
「……そんなに怯えないでよ。お姉さん悲しい。」
少し微笑むとまたそよ姫はびくりと肩を跳ねさせる。
笑ってみるのは逆効果だったようで、余計に怯えさせてしまった。
仕方ないなぁ……と千里ため息をつき、白く細い指をそよ姫にむけた。
そして、後ずさるそよ姫を捕まえるように、千里はそよ姫の頬をふにっ、とつまむ。
「!?」
大きな黒目をぱちくりと見開き、怯えと驚きでいっぱいの表情をするそよ姫。
そんなそよ姫を真っ直ぐに見つめ、千里は真剣に言葉を紡いだ。
「私、人殺しは好きじゃないの。まぁ、必要があったら殺すけど。あなたのことは利用はさせてもらうだけ。殺さない。例え間違えてあなたの味方があなたを斬りそうになっても守るから。あなたは私の、私たちのために協力して。」
だから、そんな怯えないで。
そういって千里は少女の頭を撫でる。
その手に殺気は感じられず、むしろ暖かさをそよ姫は感じた。
「本当……ですか。」
こわごわと質問すると、
「約束するよ。あなたのお仲間さんも命も奪うつもりはないよ。」
「では……なんで私を誘拐なんて……。」
「ん~、詳しくは言えないけど強いて言うなら自分の居場所が欲しいからかな?」
自虐めいた様に、悲しみに満ちた笑顔を千里はそよ姫にむけた。