第15章 偽りの愛
銀時side
この二人は銀時の過去を知っているわけではない。
けれど時節見せる切な気な表情や、鬼のような強さに秘密があるだろうことは予想がついていた。
その場に静かな時が過ぎていく。
家の前を子供が通ったのか、明るさを含んだ笑い声がその場に届く。
「けど。」
凛とした、美都の声が言葉を紡ぐ。
「私たちは…やっぱり忘れられなかった。」
ズシンと重みのある言葉。
けれどどこか、愉快さが混じっていることを銀時は見逃さなかった。
そして美都もそれを理解しているかのように、仕方がないと顔を崩し、銀時を見つめる。
長いまつげが微かに揺れた。
「仕方ないですよね…。
人を殺して、自分を生かしていたんだから。」
忘れられるわけ、なかったんです。
泣き笑い、そんな表情がぴったりの美都。
喉がきゅっと絞られたのか、苦しそうに一瞬呻く。
すると今度は大粒の涙が、ひとつ美都の手に落ちた。
美都自身も驚いたのか、一瞬肩をこわばらせたあとうつむく。
時々聞こえる軋む音は、彼女の歯の隙間からこぼれていた。
忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい_____…そう自分で思って忘れられることなんて幾つあっただろう。
忘れたいと思っていることは一番自分の奥深くの楔となって消えてくれない。
そんなことは、銀時にも分かっている。
だからこそ目の前の女たちの苦しみが、まざまざと実体験と重なってつらい。
つらい。
だから。
「私たちは過去を受け入れられなければ、進めないと思ったんです。」
それは、彼女たちの覚悟。
自分の罪と向き合うだけではなく、受け入れるという覚悟。
繋がり始めた糸に、ぶるりと心臓が震える。
直接握りつぶされたような痛みと、歓喜を感じながら、銀時は目を閉じた。
美都はそれに気づいてか、気づかずか。
高らかに、まるで今鎖から放たれた鳥のように、言葉を紡ぐ。
涙に濡れた瞳は。
意思を称えた姿は。
口許に浮かぶ微笑は。
覚悟を決めた、その眼光は。
「どうか、お願いします。
野菊に、会わせて。」
とても、美しかった。