第15章 偽りの愛
銀時side
「そしてそのあと…宗さんと呼ばれたあの人が足止めに徹してくれたおかげで私たちは無事逃げ切ることができました…。」
美都は肩をふるわせながら、あくまで気丈であろうとこちらを向きながら言葉を続ける。
銀時もそれに答えるように彼女の黒い瞳をみつめた。
「そこからは宗さんが残していった道順通りに帆を進め、色んな星を股にかけながら…時には天人であった彼女たち遊女の故郷に戻りながら…私たちはついに地球に帰ってきました。」
ふと、美都の瞳が遠くを見る。
追憶のカケラを拾うように、あの日を思い出しているかのように。
後ろの女たちも同じ暗殺者(アサシン)であった仲間たちの事を思い出しているのか、また瞳が潤む。
「私は…私たちは…ようやく長い長い呪縛から解きはなれつつあった…。」
柔らかい瞳。
艶やかな唇。
とても人を殺していた残酷な女には見えなかった。
銀時は今の千里とその姿が重ならないことに鈍い痛みを感じる。
もし、もしあのとき…。
もう戻らない過去にすがりたくなる。
必死に手を伸ばして、届かないはずの願いを指先に力を込めて掠め取ろうとしたくなる。
けど、それは幻で。
二度と還ることは出来なくて。
銀時の脳裏に多くのことが瞬時に通りすぎていく。
血のにおいと死の足音。
迫りくるあの日の恐怖_____……。
そこから銀時を救ったのは…。
いま回りにいる賑やかな人たちで。
そこから彼女を、千里を救ったのは…。
「宗…だったんだな。」
血がにじみ出るように悔しさを秘めた声で銀時は呟いた。そしてぐっ、と拳を握る。
頭と喉に上ってくる熱さは怒りか、それとも哀しみか。
なんにせよ何十回も殴られたような鈍痛が体をかけめぐり、血の味が口にまとわりつく。
幸運なことに、銀時が呟いた"宗"という単語は彼女たちの耳には届かなかった。
銀時の悲しげな表情にも俯いている彼女たちの瞳に写ることはなかった。
けれどその瞳に見え隠れする悲しみに気づいたものがいなかったわけではなかった。
「銀さん…。」
「銀ちゃん…。」