第15章 偽りの愛
そんな水仙の迷いを見抜いたのだろうか。
男は勝利を確信したかのように笑い、言葉を続けた。
「野菊をおいていくのかぃ?」
瞬間、水仙は反射的に足を止めた。
「姉さん!?」と驚く弟に気がつかないまま。
まるで心のどこかに置いてきた大切なものがまた光輝き始めたかのようにその言葉に水仙は希望を持ってしまった。
「野菊…生きてるの…!?」
何かの感情が弾ける音がした。
野菊がいきている。
あの日、あの時から会えなくなった彼女が生きている。この屋敷のどこかにいる。
「ケケケっ…最近は使い物にならなくなってきたけどねぇ。」
主人が追っ手を手で制止し、しめたとばかりに水仙と会話を始める。
その奥に見え隠れするのは引き留めることが可能だと判断した欲望。
「どういうこと!?野菊はどこ!?あの子になにさせてるの!?」
「ケケケっ…ケケケっ…それは自分で確かめるべきではないか!?暗殺者(アサシン)責任者の頭として!」
ニヤリ、とぎらついた目を水仙に向ける。
「野菊はねぇ!!今奥の部屋で死にかけてるよ!姉を失いやる気をなくしたアイツを今から火炙るところさ!!!ケケケケケケケケッッッ!!!!」
天井を仰ぎ愉快そうに笑う主人。
それとは正反対に水仙の胸には堪えきれない沸々とした怒りが生まれた。
あの子が、あの子が必死になって守ってきたもの。
それが姉だった。
その姉をなくした?
死にかけている?
ヒアブリ?ひあぶり…火炙り…。
「_______そんなこと」
絶対にさせない!
殺してやる、こいつだけは私の手で。
たくさんの女たちの人生を狂わせたこいつを。
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。
刀をひき、本能で主人の元に近づこうとした_______その時。
「ダメだ!姉さん!!!!!」