第15章 偽りの愛
必死で足を動かす。
時に飛んでくる銃弾を刀ではじきながら。
皆が逃げた道を、逃げている道の最後尾で走る。
「ケケケっ…ケケケっ…愉快だ、愉快だねぇ。」
男の不気味な声が、低く小さな声が美都の耳に届く。
聞くな、聞くな。
聞いたら揺らいでしまう。
「っ…。」
歯を食いしばれ。
生きることだけを考えるんだ!!!!
後ろに迫る大勢の足音。
何人いるのか予想は出来ないが、こちらが打つ手がないのは確かだった。
一番始めに逃げたグループが無事で、作戦がうまくいってるなら逃げるための宇宙船が起動済みのはず。
紀一郎の同期が操縦士らしい。
無事でさえいればきっと逃げられる。
「くっ!」
刀を振り抜き、銃弾を弾く。
弾かれた銃弾は銃を打った本人に跳ね返り、頭を貫く。
「こらこらー使えない男たちだねぇ…ケケケっ…銃弾の無駄遣いはやめた方がいいと思うがねぇ…。あの子はあの女は…ケケケっ…死と隣り合わせに生きてきた女なんだからねぇ…ケケケっ!」
「っ!」
かぁっと喉が熱くなる。
込み上げてくる悲しさと悔しさ。
悪寒が背中を駆け抜けていく。
私だって好きでこんなことするもんか!
吹き出しそうになる今までの不安と懺悔を振り払うように走る。
その間にも主人はひどく汚い笑みを浮かべながら追いかけてきた。
「ねぇ水仙、もしかして君ここから逃げれば人相応の暮らしができると思ってる?」
聞くな、迷うな、逃げろ。
「あんなにたくさんの人を自分の弟を守りたいがために殺して、自分の利益だけ考えて殺してそれで幸せになれると思ってんの?」
だめ、だめ、だめだめだめ!!!!!!
考えるな!今は考えるな!アイツの言ってることを考えちゃダメだ!
ケケケっ…と、また主人が笑う。
久々に会ってもひとつも変わらない汚い笑み。
エゴをおしつけ、人を呪う死神のような男の目には何も宿っていない。
「水仙、君は結局ここにしかいられない。十二才の頃から殺ししかしてこなかった君に外で暮らせるすべがあると思ってるの?結局外に出ても今度はもっと脂ぎった男の相手をするしかなくなるかもよ?」
一息に語り、ふぅとため息をつく主人。
その間にも銃弾は飛んでくる。
一方で水仙は、美都はぐらぐらと揺れていた。
聞くな、聞くなと暗示をかけても入ってくる言葉に少なからず動揺していたのだ。