第15章 偽りの愛
「ひ、ァ……。あ、ど、どうしたらっ……。」
「さっきの説明を聞いてなかったの!?あっちに出口があるでしょ!?そこに小型船があるみたいだからそこに行くって!」
「と、途中で襲われたらっ……。」
ぷちん、確かに自分からそんな音が発せられた。顔に赤みが広がり、目の前の自分の保身しか考えてない女に憎しみを覚える。
勢いに任せて水仙は女の顔を平手打ちした。
乾いた音が少しだけ空を舞い、息を荒くした水仙の怒りの言葉を際立たせる。
「馬鹿なこと言わないでっ!じゃあ現に今戦っているあの子達はあんたたちを庇って戦ってんのよ!?自分だけなにもしないで生きようとか調子のいいこと言わないでっ!」
驚いたように目を丸くする甘ったれを無理矢理たたせ、一人だけ遊女(暗殺者)を呼び、先にいくように指示する。
他の遊女たちも、目の前で叩かれた女を見て目を覚ましたのか、おそるおそる立ち上がった。
仲間はそれを確認した後、自分の妹だろうか、その子を一番に庇いつつ水仙を見る。
「頭はっ。」
「先いってなさい!こんな甘ったれたちのために命を捨てたりなんかするもんですか!」
自分が一番扱いやすい武器を取りだし、すぐさま応戦に移る。
水仙が相手を軽く避け、白詰草からもらった毒を塗りつけた刀を相手の膝に刺した。
軽く鈍い音をたてて、血が辺りに広がる。
毒が効いているのかフラリと男はよろめき、その場に倒れた。
続々と土管の中から出てくる人質と遊女、そして遊女と暗殺者(アサシン)の二足のわらじを迫られてきた仲間たち。
それらを庇いながら水仙は____美都は戦った。
生きるために、戦った。
これを生き延びれば、きっと自由になれる。
鎖を焼ききって逃げることができる。
「あぁぁぁぁぁぁああぁぁぁっっ!!!!!」
ザシュッッ……!!!
切れ味のよい小気味な音が、命を軽んじるように響いた。
それは最後の一人を倒した合図。
自分の体は気づけば血だらけで。
回りを見渡せば息を荒れされながらこちらに視線を寄せる仲間たちがいた。
「み、んな。」
傷をおっているものが多数いたが、息はまだしているものばかり。
生きている、みんな生きている。
「紀一郎っ……!!!」
水仙が一番大切な人の名を呼ぶ。
けれど、返事はなくて。
焦って回りを見渡せば、後ろから抱きすくめられた。